*全部ではありませんが大人表現あります。(露骨な部分はありません)


『…待って…傑…もう…身体もたな…い。』

何度目だったのだろう、もうぼんやりと視界が歪んで口が水分を欲している。傑と繋がったままの身体で途切れ途切れにそう零すと傑が繋がっていた身体を離して「ごめんね。」そう言って私の横に横たわった。その瞬間傑と繋がって居た箇所からどろりと液体が外に流れ落ちるのを感じた。そっと自分の下腹部に手を伸ばすとまだ傑が注いだものがそれでも沢山残っているような感覚がする。
ここ最近、いつも傑としてるとこうなる。何度も、何度も確認するかのように私の身体に触れているかのような繰り返される行為。だけど私は今のように余程限界が来るまでそれを受け入れ続けた。

「また無理させたね。名前大丈夫?」

『大丈夫…水欲しい。』

「分かった、そのままでいいよ。寝てな?」

傑はそう言ってベッドサイドに置いてあるペットボトルの蓋を開けて口に含んで私の口を開かせるようにして口移しで水を流し込んだ。
喉元をゆっくりと水分が通り抜けて行くのが心地よい。

『ありがと。ねえ、傑。』

「何かな?」

『大丈夫?』そう聞き返そうとする言葉は私の喉の奥に水と一緒に飲み込まれたのだろうか出てきやしない。大丈夫か、と聞くと傑は確実に「大丈夫だよ」と笑って言うのだろう。だけど大丈夫じゃない事位、ここ最近毎日のように繰り返される行為で分かっていた。言葉を選んで聞く事をしないと、この人は本音等言わないだろう。
寧ろ、そうしても言わない可能性の方が高い。たった一人で、自分で考えて決めて行動して来たのだから。

『ううん、何でもない。あのね、傑、好きだよ。』

「私は名前の事愛してる、かな。好きというよりは。
だから大切にしたいんだけどな。まるで覚えたての若い子供みたいだね、今の私は。」

『…傑、私も愛してるよ。』

「例えば…ね。」

傑はそうやって話をしかけて私の隣に寝転んで私を抱き締めながら続けた。

「名前と本当に一つになれたらって馬鹿げた事を考える位には愛してるんだ。」

『だけど一つになったら、こんな事出来ないよ。』

「あはは、確かにそうなんだよね。名前は私じゃないし私は名前じゃない。
だからこんなに愛おしいのかな?」

『そうだろうね。』

そう呟いて傑の私とは全く違う身体を抱き締め返した。互いの身体が汗ばんでいてそれすら心地良い。例えばそうだな。傑の言っているように一つになることさえ出来たら弱さも不安も何も感じなくなるのだろうか。もしそうならば一つに本当になれるとしたら私はその選択肢を選ぶかもしれないな。なんて思いながら私は微睡に落ちた。




翌朝、だるい身体を引きずるようにして身体を起こしてリビングに向かったら傑が私の好きな朝食を用意してくれていた。傑と目が合ったので『おはよう。』そう笑顔で言おうと思った瞬間、耐えきれない強い嘔吐感を感じて私は口元を必死で押さえてトイレに駆け込んだ。
胃でも痛めたのだろうか、分からない。だけど要素として何一つ思い浮かぶ事は無い。
ストレスでも無いだろう。だけど嘔吐感は止まらないのに何も吐けやしない。

「名前、どうしたの?大丈夫?」

後から声がしたと思うと、背中を撫でられて何とも情けない感覚に陥る。
急いでいてトイレの鍵をかけ忘れたらしい。

「気にしなくていいよ、こうしてるから。」

『…ごめん…』

「だから、気にしなくていいんだよ。」

傑の優しい声にあまりこういう場面は見られたくないなという気持ちは過ぎ去って優さを強く感じる。結局吐き気がどうにもならなくて、傑が淹れてくれたコーヒーすら飲む事も出来ず、差し出してくれる水しか飲めない。
気怠さでソファで横たわっていると、傑が優しく背中を撫でてくれる。

「名前、もしかして妊娠したんじゃないのかい?」

『…え?』

「充分過ぎる程心当たりはあるからね。私には。」

まさか、だった。傑が言葉にするまでそんな事考えてやしなかった。だけど傑の言うように充分過ぎる程私にも心当たりがあるのだ。
今まで何も無かったのが不思議な位なのだ。思い出してみれば毎月来ていたものが1か月半程来ていない事に気付く。
だけど、実際自分の立場になってみれば嬉しい気持ちよりも先に変な焦りが出てしまう。

『…検査してみないと、分かんないよ。』

「どうしてそんな顔してるのかな?」

『わ、からない。』

「私は嬉しいよ。今日、予定を調整して病院に着いて行くよ。」

その後、傑が以前用意していた保険証を持って病院に行って疑惑が確信に変わった。
だけど傑は嫌そうな表情をするどころかここ最近で一番穏やかな表情をして私を丁重に扱った。
私の身体は、私一人分ではなくなったのだ。
2017年の夏、私は傑の子供を妊娠していた。



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