傑と何度も身体を貪り合うように愛し合えば身体はくったりと力が抜けてベッドから動けそうにない。気が付けばカーテンの隙間から外を見れば漆黒だった外の景色が明け方の景色に変わっている。ぼんやりとしながら布団を被って外を見ていたら、傑に抱き締められて私は応えるように手を伸ばした。そっと傑の解かれた髪に手を伸ばす。
私は昔から傑の解かれた髪に触れるのが好きだった。
綺麗な黒い髪が私の指に絡みつく。

『綺麗な髪…傑、髪伸びたね。』

「これでも定期的に邪魔にならない程度には切ってはいるんだよ。」

『私、傑の髪好きだよ。』

「昔から、名前はそうだったね。私は君の髪の方が好きだけど。柔らかくて。」

『そう?』

傑の髪から手を離して自分の髪に手を伸ばしてみるけれど、傑程コシの無い髪はへにゃりと指に絡まって傑が言うようには好きだとは思えなかった。再度傑の髪に手を伸ばしてしばらく頭を撫でて居たら、傑から穏やかな呼吸音が聞こえて来た。
眠れそうかな、そう思って撫で続ける。その時、小さく傑が呟いた。

「猿共は嫌いだな。本当に。」

低い声で呟かれた言葉に私は『うん。』とだけ返した。私は本当の所大人になった今でも外で会う非術師の事は好きでも嫌いでも無かった。それは高専に居た時からそうだった。ただ、好きな人は好きで苦手な人間は苦手という認識だった。
私は傑が非術師を嫌いだと言っているのを傑の離反後何度も何度も聞いた。
だけど、それはまるで暗示のように言い聞かせるように聞こえて仕方ないのは私だけなのだろうか。まるで、思い込もうとしているかのように今でも傑は言う。
その度にどこか悲しい気持ちになるから私は傑に毎回言うのだ。

『私は傑が、好きだよ。』

「うん。」

『術師の傑が好きなんじゃなくて、傑が好きだよ。』

「あはは、私から力を取ったら何が残るのかな。変な事を言うね。」

『もしも、力が無くなったとしてもきっと私は傑が好きだよ。傑は望まない言葉だろうけど。』

「私は、、どうだろうな。もし名前に力が無いとして…」

『好きで居てくれたら嬉しいけどね。でも、いいよ。力も含めて好きで居てくれてるって思っとくから。

ねえ、朝が来たね。』

「そうだね。…少し眠ろうかと思ったけど、支度するよ。」

『傑、眠らないと身体持たないよ?』

「最近少し忙しくてね。しなけれればならない事が沢山あるんだよ。
名前、シャワー浴びて来るね。」

不意に離された身体から残っていた傑の体温が少しずつ、消えて行く気がした。
私はベッドに残る傑の温もりを逃がさないように、布団にぎゅうっとくるまった。
止める事なんて出来ないのだ。傑がしているのは彼が嫌っている非術師の社会人のように会社や誰かに言われてする行動ではない。傑自身が決めてする行動なのだ。
だから、止める術は無いしどうしようもない事位は理解していた。
誰も居ない部屋で小声で呟いた。

『ねえ、私が非術師でも好きって言ってよ。嘘でもいいから。』

分かって居る。あれだけ何度も口に出しているという事は、心の中で何度も何度も言い聞かせて来たのだ。自分を作って来たのだ。だから私だけ特別扱いという訳にはいかないだろう。充分特別扱いならされている。
だけど、一言だけでいいから言って欲しかった。分かりやすい嘘で良かったのに。
昔の傑なら迷わずそう言っただろう。だけど、変わって居てもこの人が良いと思って私はあの日高専を飛び出したのだ。

私は不必要な事を考える前に瞼を閉じた。
ベッドの中に居ると心地よい。思考がぼんやりとして行く。
微睡の中、私は先程まで私を愛おしげに見つめて私を抱く傑の表情を思い出していた。


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