名前先輩は多分配慮と言うものを知らない。悪気は一切感じられないから尚性質が悪い。しかも配慮と言う概念が無いのが俺に対してだけなのが更に困る。
夜間に俺の部屋にゲームを持ち込んで頼んでも無い菓子類を並べて『好きなの食べてね。』なんて笑うこの人は俺の気持ちなんか知りもしない。

「…俺もう寝たいんですけど。」

『んー?寝てていいよー。私も適当に寝る。』

「ちゃんと帰って寝て下さいよ。」

『え?恵の隣で寝たらダメなの?』

「ダメに決まってんだろ。」

訂正する。名前先輩は配慮が無いんじゃなくて俺の事を男として見て居ないのだ。だから俺が駄目だと言った事に対して何故なのかと考えようともしなければ、疑問を抱く事もせず『一緒に寝ようよ。』なんて言う。このやり取りをしているのは初めての事じゃない。とある日は俺が必死に追い返したと思ったら別の日に人が寝てる間に部屋に入って来てくっつくようにして眠って居た事もある。俺が男であるという事に全く配慮が無い。
ある日、「俺の事を何だと思ってるんですか。」と言ったらあっけらかんとして『可愛くて大好きな後輩。』と言われてしまった。
可愛いなんて言われて良い気がせず舌打ちしそうになったのを覚えている。
出来なかったのはあまりに屈託の無い表情で笑いながらそう言ったからだ。

今も何を考えてるのかすら分からない。人の部屋に来て勝手にゲームを始めてゲーム画面に夢中で俺の方に目を向けやしない。一体何をしに来たんだこの人は。
面倒になってベッドに寝転んで名前先輩を目で追う。
手を伸ばしたら届く距離だ。悠長に何もしないと勝手に決めつけて可愛いなんて思ってる男が実際に手を伸ばしてこの手で好きにしてやったらどんな顔をするのだろうか、なんて考えたけど虚しくなる。少しだけ手を伸ばして後ろ髪を指先で触れたら甘いような香りがしたような気がして劣情が止まらなくなる。

『恵、どうしたの?』

「いや、何も。」

『寂しかった?それとも眠い?』

「後者ですね。名前先輩危機感とか感じます?ちゃんと。」

『うん、人並みには。』

「嘘でしょ。だって今動揺一つしてませんもんね。」

振り返ってこちらに近付いた名前先輩の首筋を指先でなぞるようにして触れる。
だけど抵抗一つされない。何が人並みに危機感がある、だ。
劣情と苛立ちが交互に脳を支配して行く。ドクンと自分の心臓が脈打つ度に、止められない衝動に駆り立てられる。
だけど相手からは一切の恐怖感も、戸惑いも、恥じらいすらも感じられない。
それがただ悔しかった。俺が例えば同い年だったら、もっと頼れるような男だとしたらこの人は多分可愛いなんて言ったりしないだろう。
そして同じようにした時に何らかの反応を示す筈だ。
だけど俺は子供だ。

「名前先輩、俺だって男ですよ。」

『知って…るよ。』

衝動的に指先を顎に添えて引き寄せて唇が触れるか触れないかの距離に近付いてそんな事を言っても相変わらず名前先輩は俺を拒絶しようとも、離れようともせずに居る。
それに更に苛立って強引に唇を奪った。どれくらいの間触れ合っていたか分からない。気付いたら後頭部を押さえつけて逃げられないようにしてしまっていた。
唇を離した時、名前先輩は真剣な表情をしてこちらを見ていた。
怒ったのだとしたら当たり前だと思った。それと同時にこの状況を作ったアンタが悪いとも思った。

『恵、何してるか分かってる?』

「分かってますよ。」

『こういうのは、好きな人とした方がいいよ。私は…嬉しいけど。』

「は?」

『私は、嬉しいよ。恵の事好きだから。』

「は?」

困ったように笑いながら名前先輩はそんな事を言う。俺の事を好き?一瞬脳がフリーズするのを感じた。というか、ただの距離感が近すぎる人だと思っていた。
思い返してみればこの人に一度も好きだなんて言った事が無かった。
だからと言ってこの状況で流石に分からない鈍感さに驚かされる。
この場合どちらが鈍いのか定かではないけれど。

「ちゃんと好きですよ俺も。名前先輩の事。だからしたんだよ…分かれよ。馬鹿。」

『恵、嬉しい、もう一回言って。それと先輩外して。
名前だけ呼んで。』

「もう言いません。ゲームしててください。」

『え、何でそうなるの?』

「……照れてるだけです。」

そう言って背中を向けて寝転んでさっきの行為を思い出して何とも言えない羞恥心をどうにかさせようと目を閉じてみる。
名前さんはそんな俺に向かい合うようにしてベッドに入って来た。

「今日は絶対駄目です。帰って下さい。何するか分からないんで。」

『…いいのに。』

「駄目だ、いい加減にしろ。」

そう言って二度目に唇を奪った時、名前さんは微かに嬉しそうに微笑んだ。


end












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