私と雅治は、ずっと一緒だよ。
そんな事を言って名前が笑ったのはずっと昔の話。
けど俺はそん時の記憶だけは鮮明に残っとって。
そうじゃった。名前を家に送りながら手を繋いで。
やけに綺麗な星が空で輝いとって。それよりもずっと名前のが綺麗じゃ。
そう思ったんだった。
この世の中で綺麗なものを、人はとれくらい見る事が出来るんじゃろう。
作られた綺麗さ、そんなんじゃなくて。圧倒されるような自然な綺麗なもの。
そんなもん、俺が見たんはあれが最初で最後だったように思う。
きっとこれからもそんなもんは存在せん。

あれから、何年経ったじゃろう。
日が経つ毎にしがらみが増えて、俺らの間の中に広がって行って。
進路だのなんだの。そんなもん、先の事は二人でおってこそ成立するもんで。
だから俺は、そんなもんに縛られるんなんか御免じゃ。
そんな事を思いながら俺の部屋で俺を見詰めて笑う名前を見とった。
本当に、俺らの中には他のものは何も存在してない。
そう思うのに、机の上に乗せられた進路希望用紙の方へ視線を向けた名前は何か書かなきゃねなんて言った。


「別に、そのまま進学でええじゃろ?」


だって、俺ら一緒に居る為に中学も入ったようなもんじゃし。
そう言ったら、嘘吐き。テニスがしたかったからでしょなんて名前が笑う。
確かにもちろんそれは大前提にあった。
立海に進学して、どこまでやれるか試したかった。
けど、それは名前が居るから出来た事で。
学校に入ってからも、俺らは二人っきりでおった。
テニス部の連中、特に柳生とはいい距離感でつるんではおるけど他に異性とかいらんし。
それは名前も同じじゃったと思う。

寧ろ名前は俺よりいい意味で酷かったかもしれん。
必要最低限の会話しか他人と繋がろうとせんかった。
中に入れるんは俺だけ。
だから、これからもそれは同じ。
そう思ったら名前がボールペンを出して第一希望の欄にペンを走らせた。


『ねえ、雅治。
私達さあ、今までずっとお互いしか居なかったよね。』

「そうなるんかのう。
…何でいきなりそんな事言うん。変な感じするじゃろ。」

『…何となくだよ。今言っとかないといけない気がして…さ。
でもね、雅治が私を見つけてくれたの。
普通に話しかけてくれたのが雅治だけだった。』

「よくそんな事覚えとるのう。」

『だって、あれが最初で最後かなって。』


そんな事を言いながら名前は笑った。
確かに、そういえばそうだったかもしれん。
名前は昔からどこか浮いた存在で。
同い年の奴らが子供らしく騒ぎよってもどこか上の空だった。
そん時俺は幼いながらに確信した気がする。
こいつは俺の片割れじゃって。
別の身体から産まれた双子じゃって。


「別に、俺がおったら他の奴なんか…いらんじゃろ。
俺もじゃし。だからアレが最後って言うなら、俺はそれ寧ろ嬉しい。」

『うん。
ねえ、雅治。でも、雅治はさ。見つけたでしょう?居場所。
あるべき未来。』

「…何が言いたいん?」

『雅治とずっと一緒に居たいよ。私。
ずっとずっと。大人になってもずっと。
それで生きづらくても。
でもね、それは雅治の邪魔になる。』


そう言って第一希望の欄に就職と書いて俺の頬にそっと名前は手を伸ばした。
は?いきなり何を言うん?
意味がわからんのじゃけど。
俺の邪魔?俺はそんな事思った事は一度もない。
喧嘩したこともあるけど、一回だって本当に居なくなればなんか思った事はない。
大体一緒に大学行ってこれがしたい、あれがしたいって言ったんは名前じゃろ。
何で今更。


「…意味がわからん。何か家であったん?」

『無いよ、多分親も進学して欲しいと思ってる。』

「じゃあ、何で。」

『雅治の荷物になりたくないの。ねえ、雅治が居ないと何も無い私は
大切なものがある雅治の荷物になるんだよ。』

「…そんなん、勝手に名前が思っとるだけじゃろ…
何だったら、俺も一緒に就職してもええ。それじゃいかん?」

『続けなよ、テニス。』

「学校行かんでも出来る。」

『そうじゃなくて、もっとちゃんと。
雅治が頑張ってたのは知ってる。けど何も無くなったら。
私っていう荷物をおろしたらきっと雅治はもっといい所に行ける。』


何で、泣きながらそんな事を言うん。
意味がわからん。こんな薄っぺらい紙切れ一枚で。
腹の中探られて掻き回されて。
そんな馬鹿な事は周りの奴らにやらせたらええじゃろ。
俺らはここに大事なもんがあるんじゃから、それ以外何を迷う必要があるん。
大体、俺は執着が無い。テニスだって本当に言った通り続けていけるし。
そしたら、こうやってずっと。


『もう…雅治とどっか消えたい。
そしたら、もう何も考えなくて済む。
けど、出来ないね。』


ふいに名前がそんな事を言って泣きながら笑ったから
俺は名前を引き寄せてその身体を抱きしめた。
彼氏とか、彼女とか。そんな温いだけの関係じゃなくて。
俺らは、双子じゃろ?他人なんかじゃない。
どこにでもおる他人じゃない。他に替えなんかきかん。
じゃから名前は泣くんじゃろ?
ああ、裂けそうじゃ。意味がわからん。
消えたいのは俺も同じ。ずっと、居りたい。
何もかも捨てて一緒に居りたい。


「世間の常識とか、そんなんは大人になったらする事しとったら大抵の事は他人は干渉せんなる。
それまで、待てん?」

『…そうじゃない。周りがどうとかじゃなくて。
私が駄目にしてる。』

「なあ、聞いて。
俺は本当に名前が居ってくれたらそれでええ。」


じゃから、こんなもん。必要ない。
そう言って名前の後ろにあった紙切れに手を伸ばして、名前に腕をかけたまま俺はその紙を
破いた。
びりびり、裂ける音がする。
それは紙が破れる音じゃなくて、俺らの音。
その音を聞いて名前は嗚咽を漏らした。
ごめんね、ごめんね。それでも一緒に居たい。ごめんね。
そう言って泣いた。

何度も嗚咽を漏らしてそんな言葉を繰り返す名前の口を自分の口で塞いだら
少ししょっぱくて。
そんで、愛おしくなった。
俺らは、ずっとこうしておるんじゃろ?
だって、あの時に見つけた。
綺麗なもの。


「ずっと、一緒って言ったじゃろ。」


俺はあの日の事をずっと忘れん。
そんで、今日の事も。
変わらず一緒に居るって決めた今日の事を。
本当の荷物は名前じゃなくて。俺じゃって知りながら。
だけど、俺らは一緒におる運命で。
理想と虚構の塊だとしても、それが俺にとっての結末でええ。


end
「Wanderin' Destiny globe」













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