*裏を匂わせる表現が少しありますのでご注意



『…謝らないで下さい。私は貴女の事を一度も悪い、だなんて思った事はありませんよ。


よくもまあ、白々しい言葉がすらすらと出るものだと自分の歪みに反吐が出る。
悲しそうな顔で何度も涙を流す名前さんを見て来たというのに、
心の奥底にあるのは、それを慈しむ気持ちどころかその涙を憎いと思う気持ちで。
何て愚かなのだろうと思うけれど、今更やめるつもりもない。

私の部屋で俯いて涙を流す名前さんは、ごめんなさいと言って何度も涙を流す。
彼女が謝罪をしているのは、私を利用しているという気持ちからだろう。
だけど正直そんなものどうでも良い。
利用すればいい、そうさせるようにしむけたのは他でもないこの私なのだから。

仁王君の事をずっと名前さんが慕っていたのは前から知っていた。
そして仁王君はその気持ちを聞いたらどうするかも、知っていた。
彼は私の気持ちを知っているのだから。
仁王君は優しい人だから想像以上に良い言葉を彼女に投げつけた。
立ち上がれなくなる程酷い言葉で拒絶をしたのはきっと彼の本心なんかじゃない。
少なくとも、名前さんの事を嫌ってなんか居なかった筈。

ベッドに座って両手で顔を覆って、御免なさいと何度も繰り返す名前さんの顔を上げさせて
はりつけたような笑顔で大丈夫ですよ、なんて言って彼女の涙を手で拭う。

眼鏡を外して彼女と向かい合うのは、わざとだと言う事を彼女は知らない。
私と仁王君は赤の他人であるものの、入れ替わりが出来る程顔立ちは似ているのだと思う。
この顔で、彼女の目が私に向くなら別にそれで構わないんですよ。
なんて、前に仁王君に言ったときの彼の複雑な表情が忘れられない。


「名前さん、前も言いましたけど。構わないんですよ。
私は、仁王君のかわりで。」

『…そんな、事思ってない。私は…』

「その否定は私自身を見てくれている、等と思い上がっていいという事ですか?」

『私には、柳生君が必要…なの。好き…だよ。
本当に、でも、こんなのまるで利用してるみたいで。』


彼女の言葉は矛盾だらけで愛おしい。
私はそっと彼女の涙を拭って頬に唇を寄せる。
塩辛い味が唇の中から流れ込んで来た瞬間一瞬胸の奥に妙な感覚が広がる。
このような感情、抱いてはいけない。
そう思うのに、何故。
後悔や後ろめたさ。そんなもの、私に抱く権利等無いというのに。


『…柳生君…』

「名前さん、謝るならせめて。名前で呼んでくれませんか?」


困ったような顔で笑ってそんな事を言えば名前さんは小さな声で比呂士君と呟いた。
上目遣いでそんな事を言う彼女をそっとベッドに押し倒して、優しく口付ける。
本当は大切にしたい。
誰よりも、何よりも。
だけど想像以上に私は超えてはならないラインを超えてしまったみたいなんですよ。
すみません、私は結局あなたを苦しめる事しか出来ない。
こうして、何度身体を重ねても増やしてしまうのは彼女の胸の痛みだけ。


『比呂士君…好き。だよ。本当に。
信じて。』

「はい。あなたの言う事なら。」

『…どうして、どうしてあなたはそんなに私に優しくするの。』


そう言ってまた泣き出した名前さんの耳元にそっと唇を寄せて、
貴女の事を愛しているからですよ。
そう言って私は彼女の首筋に手を伸ばした。
どう足掻いても私は仁王君にはなれない。
彼のような優しい人間になんかなれない。

万が一このまま彼女が私を好きになったと錯覚したとしたら。
その時私はどうするのだろうか。
心の中で嫌な笑みを浮かべて嘲笑うのだろうか。
歪むなら、とことん歪んでしまえたらいいのに。
下らない良心なんて、早くなくなってしまえ。
そんな事を思いながら私は彼女に手を伸ばす。


end
seed Janne Da Ark










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