「…授業サボって何してんだよ。」

『泳いでる。貸し切りって気持ちいいでしょ?』

「制服ビショビショじゃん。この後どうすんだよ…ありえねえ。」

『うーん、丸井君がどうにかしてくれる。』


勘弁しろよ、そう吐き捨てた俺は彼女がプカプカと浮いているプールサイドに近付いた。
授業で使われていないだだ広いプールを彼女は言葉通り貸し切りで利用していた。
貸し切り…つっても、ただ無断で飛び込んでるだけだけど。
呆れてモノが言えなくなった俺は新しいガムを口に放り込んで馬鹿な彼女を観察する事にした。
サボっちまった授業になんか今更戻ってもどうしようもない。
それに俺が放って帰ったら、きっと彼女はビショビショの制服のまま教室に歩いて来るか
濡れたまま帰るなんて事をやってのけそうだ。
…なんて俺がこんな事を考えるのすら分かってやってんのかもしれねえけど。

馬鹿だなー俺。何でわざわざこんな女探しに来てんだろ。
振り回されてばっかなのに。
大体俺はこういうのが嫌いだ。
自分のペースで動かない事が嫌い。
特に女絡みなんか、俺がじっと座ってても必要なもの差し出して来るような奴が好きだ。
喉乾いたなーって思ったらジュース出してくれて、
腹減ったなーって思ったらお菓子出して来る様な。
だから、こんな女ありえねえ。


そう思いながらぼうっと見ていたら、濡れた制服がひらひら揺れて
女に背びれでも着いてるように見えて来た。
この女が魚になったらどんな奴になるんだろなんて考えてみた。
多分、気が狂ったようなビビットな色の…小さい魚。
多分そいつは綺麗なエメラルドグリーンの海に住んでて。
他のどの魚よりも目立って、鬱陶しい。


「ねえ、丸井君。」

『何だよ。』

「タオル、取ってくれる?」

『は?』

「そこに置いてあるでしょ。ねえ、取って。」


タオル持って来てんだったら最初からそう言えよ。
喉元まで出かかった言葉を俺は飲み込んだ。
多分俺がそう言っても何か言われて俺は言葉を失うだけだ。
分かってるんだったら、最初からこいつと関わらなきゃいいだけなんだけど。
あーマジで俺何やってんだろ。


『ねえ、こっち来てよ。』


そう言って下から手を差し出したのは、引っ張れと言う意味だろう。
あのなあ、お前そのうち男にブン殴られるぞ。そう言いながら引きずりあげると、
丸井君はそんな事出来ないよねえと笑う。
カラカラと子供みたいな顔で。
ああ、何だよ本当。

引き上げてやると、俺の隣に立ってはいと言わんばかりに両手を広げる。
多分拭けってことだろう。

勝手に動く俺の掌が憎い。
しぶしぶ、頭からそっと吹いていくと上機嫌な様子で目を閉じているのが見えた。


『うん、ありがと。身体も拭いて?』


タオル越しに首筋に軽くタオルを当てる。
あー、普通に触りてえ。
こんな欲求を抱えるのって当然だと思う。
シャツは水吸ってて下着が見えてる状態だし、分厚いタオル越しに触れた手が熱くなって来てる。

あと少し、あと少しで。
タオルをどけて、手を這わせるだけだろぃ。
そしたらなし崩し的に俺のもんになる。

女に触った事なんか数えきれねえくらいあるし、何緊張してんだ俺。
最悪ぶん殴られたらそれでいいじゃん。
知らねえっつって置いて帰ればいいだけ。
分かってるのに、何で手動かねえんだろ。



『ねえ、丸井君。普通に触れないよねえ。
だって、私が許可してないんだもん。』

「…相当悪趣味だよな、お前。」

『ううん、私センスはいいんだよ。
だって、丸井君みたいな人を選んでるんだから。』



そう言って彼女は笑った。
俺は多分この女にだけは一生敵わない。そう思った。




end 企画主従関係さまへ



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