Eden


先月の、俺の十八の誕生日。その日に、俺は記憶を取り戻した。まるで映画かドラマのように現実感に欠けるそれは、朝目覚めると、あまりにも自然に頭の中に存在していた。疑おうという気すら起きないほど自然に、そして奇妙な生々しさを伴って、だ。なまえと出逢った日、サスケが生まれた日、忍者になった日、里を抜けた日。そこまで過去から順に記憶を辿って、唐突に思い出す。あのとき、俺は、なまえにプロポーズをしていたのだ。本来ならば、何も言わずに彼女の前から消える気でいた。しかし、彼女は忍としてとても優秀で、それでいて俺と近しかったから、うちは一族が抱える闇に気づいたのはある意味当然のことだった。そのあとに俺にできることといえば、すべてを打ち明けるか、口封じをするかのどちらかしかない。そして、最善であろう口封じをできなかった弱い俺は、彼女と共に生きるという選択肢が存在しない中で、彼女の聡さと強さに甘えていた。愛していたのだ。たかだか十三の子どもでも、真剣に、俺はなまえを愛していた。来るはずのない未来を夢想するくらいに。


言い訳がましいが、俺は本当に、なまえに幸せになってほしいと思っていた。叶うならば、そのとき、彼女の隣には俺が立っていたいとも願っていた。それなのに、結果的に俺のできたことといえば、いたずらになまえを縛りつけて、置いて行くことだけだった。散々傷つけて、それでも俺に愛してると言ったその言葉が、どれだけ俺の支えとなったか彼女は知らないだろう。だから、俺は、あのときの行動を後悔したことなど一度もない。ここのところなまえを避けているのは、悪いと思っている。しかし、なまえのおかしな行動の理由を知ってしまった以上、あの日の約束を今度こそ守れるようになってからでないと、合わせる顔がないだろう。足音がないのも、俺に幸せかと聞くのも、すべてなまえが憶えているからだとしたら。俺が次になまえにかける言葉は、結婚しないか、それ以外には存在しないのだ。
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