Eden


六月九日は、イタチの誕生日だ。いつものおはように加えておめでとうを言って、プレゼントを渡す。そのときの態度が妙によそよそしかった理由はわからないけれど、それからイタチは私を避けるようになった。朝は私よりも早く登校して生徒会の仕事をし、放課後はやらなければならない仕事だけを終わらせて先に帰ってしまう。帰ってからは、うちはの道場で小学生相手に稽古をつけていると、イタチの母であるミコトさんに聞いた。うちは一族は代々警察の家系だから、道場では剣道と柔道をやっている。私も以前、ほんの少しの間だけ通っていたが、すぐに辞めてしまった。脳に染み付いた忍者の習性は、そういうことをするには不向きだったから。昔と変わらない体格まで成長した今ならともかく、慣れない小さな体では、いつ加減を間違えるとも知れず怖かった。

「もしかして、戻ったのかなあ」

ひとりきりの帰り道、誰ともなしに呟いた言葉は、薄暗い住宅街に反響もせず消えていく。果たして、あの困惑したように揺れる目は、忍だった頃の記憶を取り戻してしまったからなのだろうか。だとしたら、困惑するのもわかるし、私を避けるのも理解できる。ただ、この仮説には問題があって、イタチは私以外のかつての知り合いたちとは変わらずに接しているのだ。任務とはいえ、自らが殺めた一族の者と話せて、私と話せない道理はない。

「変なの」

ひとりごとがぽつりと零れ落ちる。真意がわからないならこちらから手を伸ばして捕まえてしまえばいいことなのに、それをしないのは私が臆病だからか。心底イタチに幸せになってほしいと思っていて、そのためには記憶がない方がいいなどと言っておきながら、結局私は自分が傷つきたくないだけなのかもしれない。私に愛してると告げた彼に戻ってほしいなんて、心のどこでも思っていないと、どうして言い切れるだろう。とんだ、ギゼンシャ。これは避けられてもしかたがないと自嘲して、ちくりと痛む胸に気づかないふりをした。
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