Eden



世界で一番幸せになってほしいひとがいた。生まれた時代も立場もお互いよくはなかったけれど、だからこそ、彼には誰よりも幸せになってほしかったし、そうしてはじめて、私も幸せになれるのだと思っていた。詰まるところ、私たちに訪れた結末はハッピーエンドではなく、むしろセオリー通りの悲劇であった。だから私は、彼があの頃の記憶など持たずに、いつ桜が咲くかなんて情報が国中に流れるようなこの地であたたかな生活を送っていることが嬉しいのだ。両親と弟と共に何不自由なく暮らしている彼は、もう忍ではなかったし、もちろんS級犯罪者でもない、普通の高校生だった。それは私にも言えることで、あの頃は顔も知らなかった両親がいて、彼と同じように普通の高校生というものをやっている。木の上を飛び回ることもチャクラを練ることもできなくなったのはどこか物足りないけれど、私は今、幸せなのだ。


「すまない、待たせた」

まるで逢い引きでもしているかのように、教室に顔を出したイタチは言った。そのセリフは記憶の中のいつかと同じでも、あのときとは、もう、違う。思い出も約束もすべてなくなった代わりに、置いて行かれることもない。少なくとも、今はまだ。

「別にいいよ。でも、公園に寄ってクレープ食べたいな」

それじゃあ、帰ろうか。そう言って、高校三年生、生徒会副会長、同級生のうちはイタチの幼馴染みという肩書きを持つ私は、高校三年生、生徒会長、同級生のみょうじなまえの幼馴染みという肩書きを持つ彼の隣を、ごく自然に歩く。

「わかった。奢ろう」

あの頃よりずっとやわらかく笑う、彼の隣を。
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テーマ「人外ファンタジー」
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