家に入ると同時にかけられる、おかえり、という言葉。それに、ただいま、と返して、まだ言い慣れないセリフに苦笑する。誰かがいる家に帰ることなんて久しくなかったことで、何となく落ちつかない気分になるけれど、きっとこれが幸せというものなんだろう。ソファーにはなまえ、キッチンからは料理のいい香り。へにゃり、という形容が似合う、気の抜けた笑顔が向けられて、思わず僕の気も緩んだ。
「おかえりなさい。すぐご飯にする?」
立ち上がって、返事も待たずにキッチンへ行こうとするなまえを引き寄せて、なめらかな頬にひとつ、キスを落とす。ふわり、漂うなまえの香り。僕の部屋を少しずつ満たしていくなまえの存在が、そのまま僕の心を満たしていく幸せに比例しているような気がした。
「さっきできたばかりだから、冷める前に食べてほしいんだけどな」
そう言いながら、なまえはやっぱりへにゃりと笑う。その姿がいとおしくて、僕は彼女を離すことができなくなるのだ。
「大丈夫ですよ。なまえの料理は、冷めたっておいしいんですから」
耳元で囁けば、頬が淡いピンクに染まって、それを見られまいとするかのように僕の胸に埋められる顔。背中に控え目に回された小さな手の温度に、また、幸せを感じた。
「でも、そうですね、温かい方がもっとおいしいに決まってます」
そっと体を離すと、真っ赤になったなまえは、急いで逃げようとする。そんな照れ屋なところも可愛らしいけれど、同時に少しおもしろくなくて、今度は彼女の唇にキスをした。