Eden


首筋にぴたりと当てられた冷たいもの、それがよく冷えた、自販機で買ったばかりのイチゴミルクだということを僕は知っている。なぜヒーローしか利用しないトレーニングルームがある階の自販機にそんなものがあるのかという疑問は、おいしそうにコーヒー牛乳を飲み干すおじさんを見てからは気にしないことにした。そして、トレーニングのあとに毎回イチゴミルクを押しつけてくるなまえさんのことも。

「お疲れさま」

真っ赤なルージュに彩られた唇の端を持ち上げて、なまえさんは言う。信じがたいことに、おじさんやロックバイソンに次いでヒーロー歴が長いというなまえさんは、片手でも余裕を持って数えられるほどしか年が離れていないくせに、なにかと僕のことを子ども扱いしたがる。不本意ではあるが、なにかと物をくれるだけで特に実害はないので、今のところ無駄な抵抗はしていない。受け取りさえすれば、あとはどうしようとなまえさんは気にかけないのだから、おじさんのお節介と違って、そう面倒なことはなかった。

「じゃあね、Jr.」

今日もまた、なまえさんは、高いヒールを鳴らして帰っていく。ひらひらと手を振りながら遠ざかるなまえさんが、こちらを振り返ることは決してない。あとに残された、周囲を漂う、甘すぎない品のいい香水の香りが、好きになれないと思った。彼女に呼ばれるJr.という呼称だって、おじさんに呼ばれるバニーちゃんとかいうふざけたあだ名と並んで不愉快だった。人の心を好き放題かき回して、知らん顔をしていなくなるなまえさんが、僕のことを見ようとしない彼女が、嫌い、だった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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