私、みょうじなまえと黄瀬涼太はいわゆる腐れ縁というやつである。同じ幼稚園同じ小学校同じ中学校。どちらかが意図した訳でもなく、地元から少し離れた私立の同じ中学校に進学したと知ったときは、さすがに笑った。そうやって健全な友人関係を築き上げて、中学校も二年目の春。放課後、自分たちしかいない教室で、私はほんの僅かにためらいつつ口を開いた。
「残念だったね、彼女、緑間くんのファンなんだって?」
一年生の後半から黄瀬が気にしていた、かわいい元クラスメートを思い出しつつ言う。私よりも彼女と同じクラスだったら黄瀬も嬉しかっただろうに、クラス替えとはまことに残酷なイベントである。それにしても、緑間くんとは。キラキラ系イケメンの黄瀬とは正反対の系統の真面目系イケメンではないか。
「なまえっち、知ってたんスか」
机に突っ伏していた黄瀬がのろのろと顔を上げた。オレンジの夕日に照らされた髪が眩しい。
「まあ、黄瀬わかりやすいし」
前の席、黄瀬のファンの派手目な女の子のイスに座りながら答えると、黄瀬はがくりと演技がかった動きで俯いた。落ち込んでいるかと私にしてはめずらしく心配などというものをしていたのだが、必要なかったようだ。物事に真剣になることが少ない黄瀬だ、今回の片想いもさほど本気ではなかったのだろう。
「なまえっちヒドイっス、優しく撫でてくれないと立ち直れないっス」
「やだよ、黄瀬大きいもん」
上目遣いで私を見る黄瀬はやっぱりイケメンだ。それも、自分のいいところをしっかり把握して利用するタイプの。あざとい。実にあざとい。
「俺、座ってるじゃないスか」
「私も座ってるし。そこまで腕伸ばすのめんどい」
ああ、ねだるような視線が鬱陶しい。しかたなく、右手で髪を弄んでやることにした。ぐちゃぐちゃになってしまえばいいとかき回したのに、サラサラの髪はあっさりと元に戻ってしまう。なんとなく悔しい。
「そんなこと言いつつ撫でてくれるなまえっちが好きっス」
これくらいのことでそんなに嬉しそうに笑うな。軽々しく好きとか言うな。私じゃなかったら、きっと勘違いして好きになる。
「それはどうも」
ぶっきらぼうに返す私は、かわいい女の子になんてなれそうもない。