Eden


「ねこ、ネコ」

今宵もあの方が私を呼ぶ。呼ばれた方へと行けば、あの方が上機嫌に笑っていた。ちりん、私が一歩歩く度に、あの方につけられた鈴が鳴る。ねこ、とまた呼ばれて、包帯で巻かれた指が私ののどを撫でた。

「よしつぐさま」

杯を持っている方とは逆の、私を撫でる手に私の手を添える。壊れ物に触れるように、慈しむというよりは怖れるように、私を撫でるその手が、私よりも余程繊細な、それこそ壊れ物であるかのように私は思う。

「ねこ」

ちりん、吉継さまの指が首の鈴を弾いた。存外、戯れがお好きな方である。そうでなければ、私のような者を、ねこなどと呼んで可愛がったりはしないだろうが。

「愛いやつよ」

酒の匂いで満ちた部屋の中、吉継さまはそう言って、喉の奥で笑った。ああ、今宵は満月か。障子の向こうで月が皓皓と照っている。
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