「サソリー」
「なんだ」
「いつか要らなくなったらさ、サソリの心臓、私にちょうだい」
砂隠れを出る少し前、あいつが死んだ夜の、その日の昼間に交わしたあいつとの最後の会話を、俺はまだ忘れていない。何が楽しいのか、いつもへらへらと笑っているおかしな女だった。傀儡を操るのがとんでもなくへたくそで、向いてないのかなあ、なんて言ってはまた、へらりと笑った。
「あーあ」
そんな女でもやっぱり人間だった訳で、終わりは随分と呆気なかった。胴体に深々と刺さった忍刀、そこから溢れる真っ赤でなまあたたかい液体。今にも死にそうなときでさえ、あいつは笑っていた。
「これじゃあ、心臓もらえないね」
もうすぐ死ぬというのに、そんなことを心底残念そうに言うものだから、俺は心臓くらいくれてやってもいいように思い始めた。どうせ近いうちに、こんなものは要らなくなる。
「いいぜ。こんなもの、くれてやる」
あとでな、と付け足せば、あいつは嬉しそうに俺の手を握った。どうやらもう、話すことすらできないらしい。ふと思い立って、耳元で話しかけた。
「代わりに、お前の心臓以外をよこせ」
耳も使い物にならなくなっているかと危惧したが、あいつはゆるゆると首を縦に振った。死んだあと、自分の死体がどうなるのか、さすがのあいつも察したようだ。安心しろ、いくらお前の傀儡操作がへたくそでも、俺に操られて同じことになるはずがない。そういや、お前のこと、それなりに好きだったぜ。冷たくなっていくあいつの身体を抱きながら、夜が明けるまでそこにいた。
俺の心臓は、あいつの心臓と一緒に、あいつの好きだった場所に埋まっている。