Eden


いよいよ、七日目になった。あいつの言葉が本当なら、今日、俺は人間に戻れる。

「コテツさんと一緒に暮らすの、結構楽しかったよ。」

俺が見た限りはじめて、余裕を持って支度を終えたなまえは、そう言ってテーブルに合鍵を置いていった。俺も楽しかった、とは、照れくさくて言えなかった。その代わり、行ってきます、と出ていく背中を玄関先まで見送った。


その瞬間は、突然やってきた。猫にされたときとは反対に、人間のものへと戻っていくからだ。一週間振りの二本足で立つ感覚は、なんとなく違和感がある。


「さーてと、帰るかあ」

一通りからだの動きを確かめて、鍵を片手に呟く。ぐるりと見回した部屋は、やっぱり生活感に欠けてはいたが、もう寂しいという印象は抱かなかった。それは、二人で食べたあたたかいメシのせいかもしれないし、なまえの笑顔を知ったからかもしれない。このまま黙って出ていくのも名残惜しく、ふと目についたメモ用紙に走り書きをして、鍵のあった場所に置いておくことにした。『ありがとな』とだけ書いたそれに満足して、今度こそ俺はなまえの部屋を出る。


「ありがとな」

誰もいないドアの向こうにそう言って、鍵を閉めた。もう必要なくなった鍵をポストに入れると、金属同士がぶつかる軽い音がする。それを聞いて、俺はなまえとのおかしな同居生活が終わったことを実感した。さよならは、言わなくてもいいだろう。きっとまたどこかで逢えるような、そんな気がするから。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -