Eden



「ただいま!」

鍵の開く音で目を覚ますと、少し息の上がったなまえがリビングに入ってきたところだった。一日振りの電気の明るさに慣れるよりも先に、慌ただしくキッチンへと消えてしまった後ろ姿を追うべく、窓辺の棚から飛び降りる。

「コテツさんのこと、すっかり忘れて泊まり込みで仕事しちゃった。ごめんね」

サンマと、ごはんに味噌汁かけてあげるから許して、となまえは言う。

「別に、大丈夫だ」

そう返事をした直後に腹が鳴って、思わず額に手を当てる。どうにも、格好がつかない。なまえはそんな俺を見て小さく笑い、鍋に味噌を溶かしはじめた。


約束通り、俺の前には焼いたサンマの皿と、ごはんに味噌汁をかけたお椀が並べられた。なまえによってきれいに解されたサンマには、小骨の一本も見あたらない。内臓を抜いたあとの苦味も好きなんだけどなとは思うが、ネコには危ないからと取られてしまった。

「本当にごめんね。家に帰ってこなくたって、誰かに迷惑かけることなんてなかったから、つい」

「いや、世話になってるのはこっちだし、一日くらいなら平気だから、気にすんな」

優しいな、コテツさんは、となまえが俺の頭を撫でる。体温が伝わってきて、じんわりとあたたかい。


おかえりを言い忘れたことに気がついたのは、なまえが寝てから、俺も寝ようと丸くなったときのことだった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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