Eden



なまえが昨日と同じようにあわただしく出ていったあと、俺はぐるりと部屋中を見回した。女の部屋に入ったことなんてろくにない俺にとって、ここは未知の領域と言っても過言ではなかった。シングルベッドに、ひとり掛けのソファとローテーブル、少し古い型のテレビ。昨日は一日寝ていたから気にならなかったが、こうして改めて見ると、ずいぶん殺風景な部屋だった。なまえという人間が確かに生活しているというのに、その気配がほとんど感じられない。バニーの部屋もたいがい生活感に欠けていたけれど、この部屋はそれ以上だ。そのためか、具体的にどこがとは言えないが、寂しいな、と思った。そして、彼女にとってこの部屋は、どういう場所なのだろうかと、ふと考える。睡眠をとるためだけにあるかのような印象は、たぶん、間違ってはいない気がした。人のことをとやかく言えるような暮らしをしていなかった、以前までの自分に心中で苦笑しつつ、実家のあたたかさを思い出す。今日、なまえが帰ってきたら、とりあえずおかえりを言おうと決めて、寝床に使うようにと用意されたタオルの上に転がった。


その日、目が覚めて、置いていかれた食事をたいらげて、また眠って、起きて、日付が変わっても、なまえは帰って来なかった。事件にでも巻き込まれたのかと心配にもなったが、あいにく、ネコの俺には、鍵を開けて外に出ることもできない。

「寂しいな……」

街灯にぼんやりと照らされた部屋で、俺はぽつりと呟いて、小さく、丸くなる。そうでもしていなければ、孤独に呑み込まれてしまいそうだ。ひとりで夜を過ごすことなんて、もう、とっくの昔に慣れたはずなのに、どうにも人が恋しい。それが、ここしばらくの実家暮らしのせいなのか、はたまた別の理由によるものなのかは、俺にはわからなかった。
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