Eden


シュテルンビルトと外を繋ぐ橋の上、そこでようやく犯人の運転する車に追いつき、前に回り込む。助手席に座らされている女性は、やはりなまえさんだった。

「もう逃げられませんよ。おとなしく人質を開放してください」

人質がいる限りこちらから攻撃をしかける訳にはいかないし、まだ周りの車には人が乗っている。犯人がどんな武器を持っているかもわからない上に、NEXTである可能性も捨てきれない。迂闊に能力を発動することもできずに相手の動きを待つというのは、思っていたよりももどかしいものだ。だが、そのもどかしさを味わっていたのは、数分間にすぎなかった。周囲の避難が済んでいないのに、彼らが乗ったままの車が、次々にこちらに向かって飛んできたからだ。

「テレキネシスの能力者か!」

虎徹さんが即座に能力を発動して、車を受け止める。僕もそれにわずかに遅れて、もう一台を止めるために動いた。5分しかもたない能力は、なるべく温存しておきたかったけれど、この場合はしかたがない。犯人の狙いも、そこにあるのだろう。わざわざ大通りを通っていたのも、たぶんそのためだ。息つく間もなく飛んでくる車、あらかたの人が避難したのはいいけれど、もうじき能力も切れる。それを見計らってか、犯人が車を急発進させた。

「おい、待て!」

とっさに追いかけはじめた虎徹さんの能力が先に切れ、そう時間を開けずに、僕の能力も切れる。進行方向には、さっきまでの攻撃で、遮るものは何もない。しかし、橋の終わりには、他のヒーローたちが駆けつけていた。


逃走が不可能だとわかったからか、犯人は人質、なまえさんを連れて車から出てくる。彼女の首に突きつけられているナイフが、今にもその肌に傷をつけそうで、緊張が高まった。さらに、近くに建設中のビルがあったせいで、鉄骨が操られて宙に浮く。あの攻撃を受けたらさすがにまずいな、と思ったが、それとほぼ同時に、なまえさんが拘束を抜けて、正面にいた僕の方に走りだした。犯人が操作に集中したために、拘束が緩んでいたのかもしれない。その華奢な体を抱き止め、安心したのも束の間、浮いていた鉄骨が数本まとめて飛んでくる。鉄骨は前方と両側から斜めに落ちてきていて、ここはまだ橋の上で、後ろに逃げ場はない。骨折くらいで済めばいいと、スーツの強度を信じて、なまえさんをできるだけ守って伏せようとした。

「大丈夫、です」

そのとき、なまえさんはそう言って、逆に僕を庇うように前に出た。

「なまえさん!?何を……」

止めようとした僕は、青く光る彼女の体を見て口をつぐむ。そしてその言葉通り、鉄骨は僕たちに届くことなく、少し手前に落下した。
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テーマ「人外ファンタジー」
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