Eden



いつものようにコーヒーを頼んで、窓際の席に座った。普段ならまだ明るい時間帯だったが、灰色の雲がかかっているせいで、今日はもう薄暗い。ぼんやりとした、控えめな照明が、暗くなりはじめた店内を照らしている。雨が降りそうだと思ったけれど、降水確率はさほど高くなかったので、傘は持ってきていなかった。そのうちに雨が降りはじめて、完全に帰るタイミングを見失う。ここからマンションまではそう遠くないが、かといって走るのは少しためらわれる距離だ。窓の外では、カラフルな傘と、急ぎ足の人々が行き交っていて、そのどちらの仲間入りもできない僕は、コーヒー片手にそれを眺める。そして、もうじき中身がなくなろうとしたとき、見覚えのある姿が視界に入り、僕は飲みかけのコーヒーもそのままに、小さな背を追いかけた。さした傘で影になっていたけれど、あの横顔は間違いなくなまえさんだ。

「なまえさん!」

こうして彼女の名前を呼ぶのはまだ三度目で、久しぶりのことになる。聞こえないかもしれないと危惧したが、人が少なくなった道に、僕の声は意外と響いた。振り向いたなまえさんは、慌てて傘を差し向けてくれる。そこでようやく、僕は自分が雨に濡れていることに気がついた。気がついてみると、湿ってはりついてくる髪がうっとうしくて、手で払う。水滴がついた眼鏡ごしに見るなまえさんは、やっぱり困ったように眉を下げていた。あんなに会いたいと思っていたのに、いざ彼女と向き合うと、何を話せばいいのかわからなくて、きっと僕も、同じような顔をしているのだろうと思った。
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