Eden



それからしばらく、なまえさんに会うことはなかった。あの日出会ったカフェにも、アルバイトをしていると言った店にも、暇を見つけては足を運んでみたけれど、どこにも彼女の姿はない。とは言っても、僕には仕事があるのと同様に、なまえさんには学校があるのだから、たまたま時間が合わないだけなのかもしれない。第一、彼女に会って、僕はどうするつもりなのだろう。そんな自問自答は、すでに幾度となく繰り返したことで、結論が出ないことなんてわかりきっていた。ただ、もう一度彼女に会いたい、それだけだったが、あえて理由をつけるならば、最後に話した日に見た、寂しくてやわらかい笑顔が忘れられないからだろうか。怖くなかったと言ったときの笑顔は、きっと精一杯の強がりで、彼女の意地だ。それを指摘するほど無神経ではないし、強がってみせられるだけの強さを羨ましいと思ったのも事実で、だけどそれは、理由と呼ぶにはあまりに些細だと自嘲する。つまるところ、僕はなまえさんのことが気になってしかたがないのだ。強くて、なのに、どこか悲しげで寂しい、不思議な女性。認めてしまえば、それはひどくシンプルな感情だった。これが単純な興味なのか、はたまたそれ以外の何かなのかは、彼女と会って話せばわかるはずだ。時計が終業の時間をさしたのをいいことに、僕はすっかり通い慣れてしまったカフェに行くため、会社を出た。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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