「そういえば、誕生日でしたよね。おめでとうございます」
撮影を終えたばかりのバーナビーさんに突然そう言われ、付き添いで来ていた私はひどく驚いた。私的な関わりなどないバーナビーさんが、自分の誕生日を知っているなどとは夢にも思わなかったのだ。あまりに驚いたせいで、お礼が遅れてしまった。
「俺、聞いてないんだけど」
そこに割り込んできたのは一緒に撮影をしていた虎徹さんで、衣装のスーツの襟元を窮屈そうに緩めている。
「誕生日なんて、そうそう自分から教える機会なんてないでしょう」
「じゃあ、なんでバニーちゃんは知ってるわけ」
「偶然その機会があっただけですよ」
目の前でぽんぽんと飛び交う会話を聞き流しながら、このふたりもずいぶん仲良くなったものだと考える。最初は今の様子からは想像できないほど険悪で、どうしたものかと悩んだが、ヒーロー業界どころかシュテルンビルト全体を揺るがせたあの一件以降、こうして軽口まで叩き合う仲になっていた。それはとても、喜ばしいことだ。
「誕生日だって知ってたら、プレゼントのひとつくらい用意したんだけどな」
バーナビーさんとの話しを切り上げた虎徹さんが、悪いな、と心底申し訳なさそうに眉を下げるので、私もいたたまれなくなる。気にしないでくださいと伝えても、気になってしまう人なのだということは、そう長くない付き合いのなかでもわかっていた。
「そうだ、とりあえずこれやるよ。ちゃんとしたのはまた今度な」
先ほどまでスーツの胸ポケットに刺さっていた花が、私の髪に飾られたらしい。
「じゃあ、僕からも」
虎徹さんの花の隣に、バーナビーさんの花も並んだようだ。ああ、私は幸せ者だなあと、つい笑顔がこぼれる。仕事中はしゃんとしたできる女でありたいのに、これでは形無しだ。
「ありがとうございます」
たとえ小道具の花でも、私にとっては最高のプレゼントに違いなかった。