moratorium



たまに、こうして部屋の窓を開けて、タバコをくわえたくなることがある。とりわけ今日のような冬の日の、息が白く濁る一歩手前の冷えきった空気の中で、白い煙を吐き出すのがたまらなく好きだった。タバコの先がオレンジに燃え上がり、少しずつ灰に変わっていく。別に、眠れなかった訳じゃない。深夜一時をとうに回った時計が視界に入って、胸中で誰にともなく釈明した。月があんまり綺麗な夜は、人の心をどうしようもなく不安定にする。それだけのことだった。
二本目のタバコに火をつけた頃、ノックもなしに部屋のドアが開いた。無遠慮な侵入者の気配は知ったものだったから、振り向きもせずにタバコを灰にする。侵入者が、彼が、背後までやって来ても、私はそのまま窓の外を眺めていた。

「背伸びしたって大人にはなれねえぞ、バンビーナ」

するりと伸ばされた手が、タバコを奪っていく。骨ばっていて、それでいてしなやかな、男らしい手だ。私よりも、ずっとタバコが似合う。それがいいことなのかは、わからないけれど。

「法律違反はしてないわよ、ダメリーノ。十六はとっくに過ぎてるもの」

「たかだか一年かそこらのくせに威張るんじゃあねえ」

それ以上の反論を封じるように、唇が降ってきた。タバコの代わりのつもりなのだろうか。そう、ぼんやりと考える。金色の長いまつげ、それに縁取られた青い瞳、それが映す私もまた、どこまでも青い色をしていた。
小娘よばわりした女を相手にするには些か刺激の強すぎるバーチョのあと、顔を離した色男は、不味いと大げさに眉をひそめて見せた。そのくせ半分ほどになった私のタバコを一吸いして、それから窓枠でぐしゃぐしゃと潰す。

「こういうときは、目を閉じるもんだ」

自分のことは棚に上げ、平然とそうのたまうプロシュートに対し、私は肩をすくめた。目ではなく窓を閉じて、ほんの少しだけ背伸びをする。さりげなく高さを合わせてくれるあたり、もしかしたら、プロシュートはとてもいい男なのかもしれなかった。

「瞼の裏より、あなたを見ていたい」

甘ったるい砂糖でコーティングした反抗と、バチャーレを返す。案の定開いたままの目が、笑っていた。
唇が軽くふれ合ったまま、私はプロシュートの腕を引いて後ろに倒れる。部屋が狭くてよかった、と思うのは、はじめてのことかもしれない。シングルベッドが二人分の体重で軋む。その気になれば踏みとどまれたはずのプロシュートは、されるがままに私の上に落ちてきた。覆い被さるように私と天井の間を遮っているものだから、まるで組み敷かれたみたいだ。

「あなたの鼓動を子守唄に、声を目覚ましにできたら、とても素敵だと思うの」

応えはなかったけれど、もう一度降ってきた唇が、きっとその代わりだった。
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