Eden


一睡もしないまま、シーツの中で時計が六度鳴るのを聞いた。nameはそれを合図にベッドを出る。日の出にはまだ三十分以上あるが、夜明け前の時間はそろそろおしまいだ。わずかばかりのエジプト通貨が入った財布を持ち、nameは部屋をあとにした。
誰にも止められないまま階段を降り、砂と血で汚れた犬の死骸の横や、見覚えのある衣類の横を抜け、番鳥のいなくなった門をくぐる。途中まではタイヤのあとを、それから先は破壊のあとを辿れば、目的地へ近づくのはそう難しいことでもなかった。そしてnameは、ひときわ激しく破壊され、ひときわ厳重に警備されている場所を見つける。

「Little Briar Rose」

密やかに口にしたのは、スタンドの名前。それに呼応するかのように伸びた茨の蔓が揺れる。スタンドを見ることのできない警備員たちは、その蔓が触れた瞬間、なす術もなく地に臥せた。寝息をたてる人々の間を、nameは悠々と歩く。ワンピースの裾が風を孕み、翻った。

「こんなときでも、あなたはうつくしいのね」

ひざまづき、継ぎ目で胴体から離れた首を抱き寄せて、nameは感嘆する。それには縦に亀裂が入っていたが、痕こそ残っているもののすでに塞がっており、崩れはしなかった。しかし、その瞼は閉じられ、あかい唇も動く気配がない。自らの顔の高さまで首をかかげ、nameは傷程度では損なわれることのないその美貌を見つめた。


「テメー、何者だ。DIOの手下か」

凄みのある声が耳に届き、振り返ると、そこにはふたりの男がいた。周囲に張り巡らしたスタンドを睨む黒ずくめの若い男と、それよりもラフな格好をした壮年の男。彼らが何者であるか、nameは知っている。彼らの目的も、それどころかDIOの目的すらろくに知らされなかった彼女の、ほとんど唯一知り得ることがそれだった。百年の因縁。ジョナサン・ジョースターの血筋。DIOの話でしか彼を知らないnameには、彼と彼らの類似点など見つけようもなかったが、きっとその瞳が似ているのだろうと、そう思った。ジョナサンについて語るとき、DIOはいつもnameの瞳を、ときにはその奥を覗いていたから。

「あなたたちが、ジョースター」

一行にはジョースターの血統以外の人間もいると聞いていたが、目の前のふたりがそうであるという不思議な確信が、彼女にはあった。青い人型と、紫の茨のスタンドを出して構える彼らとは逆に、首を抱いたままのnameはスタンドを戻す。警備員相手には多少乱暴な手段を取ったが、もとより戦う意思などない。

「夜明けまでと言ったのに戻らないから、迎えに来たの。……いいえ、違うわね。見送りに来たの」

ふたりに再び背を向けて、呟くようにそう言った。うっすらと白んでいた東の空から、少しずつ太陽が上りはじめる。最初は、豊かな金糸の先だった。それから、白皙のかんばせが。隠れていたピジョン・ブラッドも残らず灰になり、nameの手のひらに積もる。

「さようなら、DIO」

別れの言葉は、灰とともに風にさらわれていった。
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