Eden


響く轟音に、nameは目を開けた。いつもは静寂ばかりが広がる館が、今日はずいぶんと騒がしい。天蓋付きの豪奢なベッドから降り、分厚いカーテンを捲ると、外は夕方に差し掛かる頃だった。主人に合わせて昼夜逆転した生活を送る者の多いこの場所においては、まだ早朝にあたる時間帯だ。それはnameにとっても例外ではなかったが、安眠など到底望めない状況らしい。ジョースターたちが来たのだろう。館のスタンド使いの中ではただひとり、一行のカイロ入りを知らされていなかった彼女は、ネグリジェからワンピースに着替えながら考える。身支度を整える間に、いつしか喧騒は聞こえなくなっていた。
廊下に繋がるドアの隙間から、nameは様子をうかがった。辺りに人影がないのを確認し、いつにも増して埃っぽい空気に柳眉をひそめながら、階段へと歩みを進める。DIOの棺がある塔を除けば最上階にあたるこのフロアには、まだ誰も到達していないようだった。

「どこへ行くつもりだ」

不意に背後から抱きすくめられ、半ば足の浮いた状態でnameはその身をすくませた。耳に直接吹き込まれるようなベルベット・ボイスはどこまでも甘く、癖のあるブロンドが首筋をくすぐる。肌のふれ合った部分が冷たい。

「どこへも行きやしないわ。ただ、そうね、ジョースターのことを一目見てみたいと思ったの」

次の瞬間には、ふたりは部屋の中にいた。nameを横抱きにするDIOはいつになく上機嫌で、それでいていつもより言葉数が少ない。

「寝ていろ。夜明け前には起こしてやる」

たくましい腕からベッドへと落とされ、それからひどくやさしい手つきで髪を撫でられても、nameはされるがままになっていた。このおとこがそう言うのだから、確かに夜明け前に起こされるのだろう。そうしてきっと、彼の隣でもう一度眠るのだ。彼女は思う。もし、約束が破られることがあるとすれば、それはこのうつくしい吸血鬼が朝日に灼かれてしまったときに違いない。

「このまま朝までおやすみを言い続けられたらいいのに」

ベッドを離れるDIOの背にそう投げかけ、シーツにくるまる。取り立てて反応が返ってくることもなかったが、それで構わなかった。
自分の呼吸しか聞こえない部屋で、nameは目を閉じた。じきに、夜が訪れる。



(William Shakespeare『Romeo and Juliet』より)
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