Eden


その女と出会うのは、ヴァニラ・アイスにとってそう珍しいことではなかった。暗い廊下に溶け込む髪とワンピース、白い肌が薄明かりの中にぼんやりとした輪郭を滲ませ、あかい唇とエメラルドの瞳だけが色を持っているかのようだ。いつの間にかDIOが連れてきた女は、与えられた部屋からあまり出ないが、それでも数日に一度は外で見かける。すれ違いざまに足を止めたヴァニラに、女もまた、それに倣った。

「こんにちは、ヴァニラ・アイス。ご機嫌いかが」

やわらかなソプラノが、ヴァニラに問いかける。書庫に行く途中だったのだろう、本を片手に小首を傾げる女は、nameは、ひどく脆そうだ。それが、ヴァニラは気に入らない。DIOに選ばれた特別な人間が、普通であるさまが気に入らない。どうやらスタンドは発現しているようだが、それにしてもnameはただの女だった。少なくともヴァニラの目にはそう映った。いっそ無機質なまでに整った容貌は、その印象は、なるほど、DIOに近いものがある。nameを正面から見つめながら、ヴァニラは思った。だが、それだけだ。美しいだけの人形では、食事たちにさえ劣る。

「……おまえは」

胸に浮かんだままの、そのすべてを言い切ったとき、ヴァニラは壁に叩きつけられていた。絡みつく細い茨越しに見える、生命の炎を燃やすそのエメラルドは、まるで。
スタンドを出すよりも、離せと言うよりも早く、nameはヴァニラに背を向ける。そして、数歩進んだ先で思い出したように振り返った。

「緑の目をした怪物に、気をつけることね」

艶然と微笑む女の、手にしている本のタイトルはオセロ。

「それは、おまえのことではないのか」

nameは笑みを深めると、長い髪を揺らして立ち去った。当初の目的通り、書庫に行くのだろう。茨がほどけ、後ろ姿が消えても、ヴァニラはしばらくその場から動けずにいた。



(William Shakespeare『Othello』より)
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テーマ「人外ファンタジー」
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