Eden


俺と金城から少し遅れて、みょうじは白い自転車を押して現れた。その自転車、いや、クロスバイクに、俺も、隣の金城も思わず反応する。普通の大学生、それも女の通学用には不釣り合いな代物だ。

「お待たせしました」

二人ともカッコいいのに乗ってるんだね、とみょうじは言う。競技用なのだから、普通の自転車と比べれば断然かっこいいに決まっているが、褒められて悪い気はしない。

「自転車競技部だからな。みょうじさんのバイクは、デローザか」

「ふふ、かわいいでしょ。一目惚れして買っちゃったの」

「カワイイのはいいけどサ、ちゃんと乗れんのかァ?それ」

つい口を滑らせて、そのあと舌打ちをしそうになった。言葉が足りない上に、選択もだいぶ間違っている。クロスバイクは自転車と違って乗りにくいが大丈夫かと聞きたかっただけなのに、どうしてこうなるのか。謝るのもおかしいだろうし、うまいフォローも思いつかない。結局、俺は黙りこんだ。

「アラキタくんはひっどいなぁ。そんな心配しなくても、今はちゃんと乗れますし」

「今は、か?」

「キンジョーくんまでそういうこと聞いちゃう?」

俺の葛藤を他所に、みょうじは軽やかに笑っている。それに安心するよりも先に、心配を見透かされたむず痒さがきた。この場の雰囲気を悪くしないよう適当に言ったのか、本当に察されたのか。どうにも後者のような気がするのは、たぶん間違いじゃない。

「乗ってみりゃァわかんだろ。いーかげん腹へったし、行こうぜ」

ペダルに足を掛けて、道路へと漕ぎ出す。背後から追ってきた緩い返事に、根拠もなく、こいつとはうまくやっていけそうだと思った。
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