Eden


かぜひいた、というたった五文字のメールを受信したのは、四講の民法が終わる十分前のことだった。この講義が私の今日の最終だと、荒北は知っているはずだ。それを踏まえてこの後来いという意味なのか、それとも限界だから助けろという意味なのか、五文字からは図りかねる。とりあえず、終わり次第自転車をとばして行こうと決めて、いつの間にか進んでいた板書をノートに写した。


ゼリーとスポドリと冷えピタを買って、まずはバイト先のカフェへ。そこから、前に荒北が来たときに、アレが俺ん家だと指さしていたアパートを探す。なんだかストーカーみたいで嫌だけど、この状況ではしかたがない。電話に出てくれれば早いのに、講義後から何回掛けても荒北のケータイは繋がらなかった。幸いにも、それらしき建物はすぐに見つかって、私は急いでペダルを漕ぐ。入り口の郵便受けのネームプレートで、部屋番号を確認できたのも助かった。置き場のない自転車を連れて、階段を上る。

「202、号室……ここだ」

マジックで雑に書かれた荒北の文字。間違いなく、荒北の部屋だ。呼び鈴を押すと、ピンポン、と軽い音が鳴った。荒北は、出て来ない。試しにドアノブを回してみる。簡単に、開いた。

「お邪魔します」

なるべく静かに侵入して、ぐるりと部屋の中を見回す。意外に片づいた室内の、端っこにあるパイプベッドで、荒北は布団にくるまっていた。そっと近づいてみたはいいけれど、触れたら目を覚ましてしまいそうな気がして、うかつに冷えピタを貼ってやることもできそうにない。ベッドの側、毛足の長いラグの上に座り込んで、私は荒北が起きるのを待つことにした。
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