Eden


気温は日増しに暖かくなり、ようやく大学生活にも慣れてきたこの頃。私も少し、効率のいい講義の受け方なんてものを覚えだした。といっても、サボるなんてことは今のところしていないし、態度も真面目そのもの、だと思う。それなら、どの辺りが効率がいいのかというと、上手に手を抜けるようになった、ただそれだけ。例えばこの教授の講義なら、出席票兼感想シートに、重点的に解説していたことに関するちょっと突っ込んだ質問を書いておけばいい、とか。的外れな感想を長々と書くよりも、短い質問で点数がもらえるなら、その方がよっぽど楽だ。


教授が講義用の板書をする音をBGMに机に突っ伏していると、どさり、とカバンを置いたらしい振動がして、思わずそっちに顔を向けた。開始ギリギリに講義室に滑り込んできたその人は、何やら悪態をつきながらカバンの中を覗いている。プリントを二枚取って後ろに回すと、ちょうど顔を上げた彼と目が合った。ものすごく、目付きが悪い。見下ろされているせいもあって、ただならぬ威圧感すら漂っている気がする。私もそれに負けじと見つめていたら、なんだか妙な空気になった。たっぷり二十秒くらい見つめ合ったところでチャイムが鳴って、ナイスタイミングだと私は黒板の方を向く。隣の彼は、ぞんざいに頭をかいて席についた。それを横目に、さりげなく彼の分のプリントをそちら側に追いやる。そうして伸ばした腕を戻そうとしたら、なぜか袖口を掴まれて動きが止まった。

「シャーペン、貸してくんねぇ?」

先ほどの威圧感はどこへやら、しおらしくそう言う姿に、私もなんだかしかたがないなという気分になる。どうせシンプルな単色のシャーペンしかないしと、普段はあまり使わない方をペンケースから出した。ついでに消しゴムも、ハサミで切って半分こ。ペンはあいにく最低限しか持ち歩いていないので、我慢してもらおう。

「はい、どーぞ」

「どーもォ」

私から筆記用具を受け取った彼は、アラキタと名乗った。今度礼をする、と言うあたり、意外に律儀なやつのようだ。そんなアラキタが、後に大学でいちばんの友人になるなんて、この時点では想像だにしない私は、板書をノートに写すべく前に向き直った。
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