まさか、コンビニにおやつを買いに来たほんの数分の間に雨に降られるとは思ってもみなかった。さらに間の悪いことには、コンビニから出て百メートルほど歩いてしまったがために、戻ってやむのを待つという選択肢もない。このどしゃ降りの中、走ってアパートに帰るのはもっとない。
「どうしよっか、荒北」
駆け込んだ屋根の下、いかにも不機嫌ですという顔をしている荒北に話しかける。どうしようかと言っても、どうしようもないよなあと、口にしてから思った。
「やむまでここにいるしかねぇだろ。どうせ通り雨だしな」
灰色の空を見上げながら、荒北はそう言う。向こうに雲の切れ間があるから、確かにこれは、通り雨なのだろう。荒北が濡れた前髪をかきあげる横で、私はパーカーのフードを脱いだ。
「虹、でるかな」
「……さァな、でるんじゃねぇの」
荒北と私の間に沈黙が落ちるのはごくありふれたことで、必要以上に会話することの方が少ないくらいだ。それにもかかわらず、この雨音の中では、どうにも何か話さなければいけないような気分になった。とりとめのない私の話に、荒北もなぜか、くだらないと流すことなく相づちをくれる。ずいぶんと適当ではあったけれど。
十分ほど、そうしていただろうか。降りはじめたときのように、突然雨はやんだ。日光が足元のみずたまりに反射してキラキラと光る。
「やんだね」
「おう」
「帰ろっか」
「そうだな」
湿ったアスファルトに足を踏み出す。ふとポテトチップスが食べたくなっただけなのに、とんだ災難に遭ってしまった。一緒に買った荒北のからあげは、とっくに冷めきっているに違いない。
「よかったな」
温めなおすときに敷くクッキングペーパーは、まだ残っていただろうかと考えていたら、数歩前を行っていた荒北が振り返った。ほら、と指さされた先には、虹。
「そうだね、キレイ」
たまには雨宿りも悪くはないと思う私は、なかなか現金な人間なのかもしれなかった。