日付が変わった瞬間から鳴り出す着信音。どうせ東堂からのメールでも受信したのだろうと思ったが、鳴りやむ気配のないそれは、どう考えても電話のコールを告げていた。ケータイを開いてみると、それは意外にもみょうじからの着信で、オレはとりあえず通話ボタンを押してみる。
「もしもし荒北?誕生日おめでとう!突然だけど、今日の夜って暇?」
繋がった途端にそう捲し立てられ、つい電源ボタンに指が伸びた。なんだって、この時間帯にこんなにハイテンションなのだろうか。
「特に予定はねぇけど、どうかしたのかヨ」
「荒北の誕生日祝いでもしようと思って。暇なら練習終わったあとうちにおいで」
「……八時半」
「了解、お腹空かせて来てよね」
電話の向こうでみょうじがクスクスと笑う。わざわざこう言うということは、晩メシは期待できそうだ。わかった、と返そうとしたところでタイミング悪くキャッチが入り、出鼻を挫かれたような気分になる。どうせ、今度こそ東堂だろう。
「あらら、電話?誰からだか知らないけど愛されてるねぇ」
「るっせ!もう切るぞ!」
誕生日を祝う電話が愛の証なら、一番にかけてきたお前は、オレのこと大好きじゃねぇか。からかうような声色に、とっさに口にしかけた反論を、危ういところで飲み込んだ。
「そうそう、来るときにコンビニ寄ってチューハイ買ってきてね。あ、でも、私は炭酸なしのやつがいいな。それじゃ、おやすみ!」
「……おやすみィ」
オレの心境に気づきもせず、みょうじは用件だけを言って、そのまま電話を切ったようだった。一瞬暗くなり、すぐに明るくなった画面には、予想通り東堂尽八の名前が表示されている。これを取ったが最後、当分眠れなくなることは目に見えているので、オレは電源ボタンを連打して布団に潜った。