半ば強引に家の中に押し込まれながら、何やってんだろうなァと思う。初めて入ったみょうじの部屋は、そこかしこからみょうじの匂いがして落ち着かない。そもそも、それなりに仲良くなったとはいえ、同い年の男を一人暮らしの部屋に入れるとは、危機感というものはないのだろうか。ないんだろうな。勧められたこたつに促されるがままに収まると、冷えていた手足の先がじんわりとあたたまっていく。
「何食べたい?」
「肉」
「おお、この時間から重たいねぇ。しょうが焼きでよければすぐ作るけど」
「それでいい」
「おっけー、ちょっと待ってて」
水道から流れる水の音、野菜を切る包丁の音、フライパンではねる油の音。合間には冷蔵庫や引き出しを開閉する音や食器がぶつかる音が聞こえてくる。それらにぼんやりと耳を傾けていると、だんだんといい匂いがしはじめた。
「お待たせ。サラダと味噌汁も作ったけど、これで足りる?」
「ベプシが足りねぇ」
「うちには今、紅茶とほうじ茶しかありません。ということで、はい、ほうじ茶」
「……サンキュ」
湯気をたてる茶とメシ。食欲をそそる匂いに、思わずごくりと喉が鳴る。学食以外で人の手作りを食べるのは、数日前のそうめんをカウントに入れなければ、夏期休暇に帰省してからはじめてのことだ。せいぜい目玉焼きを焼けるくらいの腕前で、自炊をしようなどと考えるはずがない。その結果毎晩食べていたコンビニ弁当よりも、テーブルに並べられた食事ははるかにうまそうに見える。
「たぶんちゃんとおいしいからさ、いっぱい食べなよ」
そう言って箸を持ったみょうじに倣い、オレはいただきます、と口にした。