Eden


風邪ひいたメールがきてから四日、昨日には全快したという荒北は、今日も私のバイトが終わるのを待っていてくれている。病み上がりなのだからいらないと言っても、何かあったらどうすんだの一言で押し切られてしまった。まあ、ある程度予想はしていたので、ありがたく送ってもらうつもりだ。

「ねぇ、荒北、このあとって暇?」

「むしろこんな時間から用があると思うのかヨ」

「だよねぇ。じゃあ、うちで晩ごはん食べてきなよ」

あの、コンビニ弁当の空容器と空っぽの冷蔵庫を見てからずっと考えていたこと。荒北が自炊しないのならば、私の手料理を食べさせればいいのではないかという単純な作戦だ。

「……ハァ!?」

しばらく黙ったかと思ったら、荒北は突然自転車を止めて振り返った。私は慌ててブレーキをかける。前を走っていた荒北が急に止まったせいで、危うく追突するところだ。たいしてよくはない反射神経しか持ち合わせていないのだから、こういうことはやめてほしい。

「危ないなぁ、どうしたの?」

「むしろお前がどうしたんだヨ!」

「なに?ひょっとしてもう食べたとか?」

「いや、まだ食べてねぇけど」

「ならいいじゃん。ほら、行くよ」

ペダルにかけた足に体重を乗せて回すと、止まったままの荒北なんてあっという間に追い越せた。後ろに荒北の気配を感じながら走ることは珍しくて、ちょっとテンションが上がる。荒北の背中を見ながら走るのも好きだけど、たまには前も悪くないなと考えながら、家までの道を一直線に漕いだ。
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