小説 | ナノ



眠れなくてギンギンになった目をこする。昨日のことを思い出してひとりで赤面してようやく自覚する。わたし、流川くんと付き合ってるんだ。そう思ってベッドの中で照れたようにうへへと笑う。早く起きなさい!というお母さんの声に負けないくらい大きな声で返事をした。




議題2:モテる彼氏をどうやって繋ぎ止めるか




「あ、」


学校に行く道すがら、背の高い男の子が歩いているのを見かけた。あの身長と髪型は流川くんだ。声をかけようと思ったけどそれはかなわなかった。流川くんの隣にそれはそれは可愛らしい女の子が歩いていたから。
やっぱり流川くんはモテるのだ、今さらながら再確認すると同時に胸がちくりと傷んだ。それはたぶん嫉妬と、わたし以外の女の子とああして話す流川くんを見てショックを受けたことだと思う。流川くんにバレないように数メートル離れながらひとりでとぼとぼと歩いていった。




「おはよ、なまえ」

「ん、おはよう」

「なんか元気なくない?」

「…気のせいだよ」


ふーん、と曖昧に頷く友達から離れて自分の席につくと同時にうつぶせる。朝からものすごく悪いものを見た気がする。
ふと、トントンと肩を数回叩かれてもそりと頭を上げて相手を見る。


「おす」

「お、おはようございます」


ウォークマンのイヤホンを耳にさしながら流川くんが立っていた。無表情にわたしを見つめていて妙に緊張してしまう。なにか言われるのか、と身構えているとそのまま席に行ってしまい拍子抜けする。と、担任が教室に入ってきたと同時にチャイムが鳴り響いた。
結局あいさつを交わしただけで会話らしい会話は終わってしまった。



なんやかんやで一日のすべての授業は終わってあっという間に帰り。今日も疲れたなあとぼんやりしながらカバンを肩にかけて靴をはきかえる。


「なまえ」

「あ、流川くん」


ユニフォーム姿でタオルをかけた流川くんが汗で髪を濡らせながらやって来た。


「もう帰り?」

「うん」

「このあと予定あんの」

「ううん、特になんにも」

「じゃあ、ちょっと来て」


クイ、と手を引かれるままに歩く。連れていかれた先は体育館。目の前にはバスケ部が練習をしている。


「見てって」

「へ、あ」


わたしをぽつりと残したまま、流川くんはバスケ部の練習に参加してしまった。戸惑いながらもギャラリーのたくさんいる方に混ざって観戦する。
キュッキュッとバッシュが床を擦る音とボールの弾む音ばかりが響く。流川くんがバスケットが上手いことは知っていたけど、実際に見ているとそれがよくわかる。素人でもわかるその技術に恥ずかしながら惚れ惚れしてしまう。


「流川くん、頑張って!」

「かっこいい!!」


周りから聞こえる声に流川くんを応援しているのはわたしだけじゃないんだ、と少しだけ落ち込む。応援する女の子達の中に、朝流川くんと一緒にいた可愛い子がいた。
その子の視線の先にはやっぱり流川くんがいて、好意があるのがはっきりわかる。自分よりはるかにお似合いでどうしようもなく惨めになった。


090726