小説 | ナノ


いや、なんとなくはわかってたよ。でもいざこうして実際に聞くとやっぱちょっとへこむ。
それは今からさかのぼること20分前。下駄箱で待ってろと言われてから寿が来ないので仕方ない、と教室まで迎えにいった。

ギャハハハという下品な笑い声が聞こえて、ドアについている小さな窓から顔を覗かせた。そこにはお馴染みのバスケ部メンバーが楽しそうに笑っていた。


「やっぱ女は胸だよなァ」

「ミッチーもそうだろ?」


そりゃ男が集まればこんな話をするに決まってるけど、彼氏のワイ談なんか聞きたくない。と言いながらやっぱり耳をかたむけてしまう。


「当たり前だろ。巨乳でナンボだ」


だよなー、と笑う声が響いているのをぼうっとして聞いた。
……あたしぺちゃんこなんだけど。凹凸が見られないんだけどどうしよう。心もとない自分の胸元にため息しか落ちない。


「でもミッチーの彼女ぶっちゃけ…なくね?」

「あー、確かに」


ぐさりと突き刺さるような痛みと恥ずかしさでわけがわからなくなる。それ以上は止めてくれ!とハラハラしながら寿の言葉を待つ。


「俺バレー部の川島とかイイと思うんだよな」

「あァ、わかるわかる」


絶句するとはこの事を言うんだろうか。まさか他の女の子の名前が出てくるとは思わなかった。
彼女がいるのになにさそれは。あたしは補助要員かいな。言い返そうにもほとんど的を獲ているのでなにも言えない。それがまた悔しいわけで。

ガラリ

ぐるぐる色んなことを考えていると急に教室のドアが開いて、さっきまでワイ談をしていた寿が目を丸くして立っていた。


「おま、なんで」

「悪かったわね、巨乳じゃなくて」


恨みがましく呟いてくるりと背を向ける。教室ではやべえ!とバスケ部の人たちがざわざわと騒いでいるのが聞こえた。

そりゃあたしは巨乳じゃないよ、ぺちゃんこで未来にかけてるけど。でも川島さんがイイとか言う?!顔にやけてんだよだらしないんだよ!
ずんずんと肩をいからせながら歩く。ムカつくムカつくムカつく!!


「ちょっと待てよ!」

「う、あ」


グイ、と腕を引かれて立ち止まるしかなくなる。誰があたしの腕を掴んでいるかなんてわざわざ振り返らなくてもわかる。


「あれは、そのな」

「うっさい」

「話聞けって」

「言い訳の間違いでしょ。離して」


押し問答を繰り返して腕をひっぱるけど、男の力には勝てるはずもなく。


「ごめんて」


あっという間に寿の胸の中。大きな背を精一杯屈めてあたしを包む。
嬉しくてでもやっぱ悔しい。こんなふうに優しく抱きしめられただけで許しちゃうのは惚れた弱味というやつなのだろうか。


「川島さんにも謝って」

「…ごめんなさい」

「じゃあもう離して」

「ムリ」

「はあ?」

「離したらお前どっか行くだろ」

「…行かないよ」


ぎゅうっと抱きしめられる力が強くなって、たぶんこれは放してもらえないだろうなんて思う。でもそれが不思議と嫌じゃなくてあたしも広い大きな背中に手をのばしてみた。



090923