帰ろー、という友達の誘いを泣く泣く断って教室からダッシュで下駄箱まで向かう。もちろん奴らに見つからないように周りを見渡しながら。ローファーに両足を突っ込んでいざ出発。今日という今日は捕まるわけにはいかない。 待ちに待ったバイトの面接が今日行われる。お小遣い稼ぎにちょうどいいのとカッコいい男の子との出会いを求めて。もちろん親の承諾はとってある。ただ、奴らに見つかるとわたしの今までの努力が水の泡。バッグを抱えるようにして校門を過ぎたとき、ものすごい力で腕を捕まれた。 「何すんの…よ…」 「お兄ちゃんから逃げようなんて百年早いわ!」 ガハハ、と腰に手を当てて笑っている銀髪に頭が痛くなる。ちっ、バレたか。 「銀時、捕まえたか?」 「おうよ!」 ひょっこりと顔を出した黒髪にさらに頭は激しい痛みを訴えだした。 「ったく、お兄ちゃん達と一緒に帰るって約束しただろ?」 「誰がいつあんた達と約束したんだ」 「照れ屋だな、我が妹は」 「だいたい高校生にもなってお兄ちゃんと一緒に登下校する人なんていないから!」 ギロリと目の前にいる二人の兄を睨む。それでも平然と突っ立ってわたしを見つめている。 「家族だから一緒にいれるんだろーが」 「十四郎の言う通りだ。だから一緒に帰りなさい」 ビシッと人差し指を向ける銀兄に対してうざったくため息を落とす。いつもはトシ兄と仲悪いくせにこういうときになると団結する。 「二人ともモテるんだからはやく彼女作ってよ」 「そんなん必要ねェだろ、お前がいるんだから」 「いや、わたし妹だから。彼女じゃないから」 いつもはクールなトシ兄もこういうときはシスコンが爆発する。銀兄よりマシだと思ってたのに、どっちも救いようのないくらいアホだ。 「とにかく!わたしは今日一人で帰るから」 「……男か?」 「ええええ!彼氏なの?そんなのお兄ちゃん許さないからね!」 「違うよ!バイトの面接…」 ぽろりとこぼした言葉に慌てて自分の口を覆うも、時すでに遅く。にんまりと意地の悪そうな笑みを浮かべた二人の兄がいた。 「へェ、俺たちに黙ってバイトなんてしようとしてたのか」 「悪い子だなァ…」 「い、いいじゃん!バイトなんてみんなしてるよ!」 「けどお前はダメだ」 「どうして!」 「変な男に捕まったらどーすんだ」 「そんなことあっても銀さんが必ず助けてやるけどな」 さー帰るぞ、と両腕を引かれて無理やり歩かされる。ぶんぶんと思いきり振られて腕がもげそうになる衝撃を感じた。それでもまだ諦められない。せっかく掴んだチャンスを不意にするほどわたしは弱くない。 家に着くと自分の部屋に駆け込んで、携帯電話でバイト先の番号をプッシュする。実は母が…、と適当に言い訳をして面接の日時をずらしてもらうことに成功した。(ごめん、お母さん) 数日後、わたしは無事バイトをすることになった。兄達のドーベルマン並みの追跡の目ををかいくぐり、勝利を手にしたのだ。いそいそとバイトの制服に着替え、仕事を始めようとした時店長からの召集があった。控え室に集まると店長がごほん、と咳をして周りを見渡す。 「実は今日、新しいバイトの人が入ってきてんだ。それでは紹介します」 「坂田銀時でーす」 「同じく坂田十四郎です」 目を見張るとはまさにこのこと。驚きすぎて声も出ない。よろしくお願いします、とみんなが口々に言うのをどこか遠くで聞いていた。 ぞろぞろと控え室から出ていく人の波に紛れようとするも、肩に置かれた手によって阻止される。 「逃がさないよ」 「う、うわあ銀兄とトシ兄じゃーん。奇遇だね!」 「どういうことか詳しく聞かせてもらおうか?」 「ごめんなさいいいい!」 今世紀最大の愛 お兄ちゃん達は妹を愛してるだけ、だよ 一万打企画/title 哀哀 |