小説 | ナノ

屋上の扉を開けると、むわりとした熱気と鼻にくる独特の匂い。


「くっさい!また煙草吸ったでしょ」
「悪ィかよ」
「悪いわよ。ったく、昨日だって先生に煙草吸ってるのかって疑われたんだから」
「へえ」


興味なさそうにふいと顔をそらした高杉に説教をしようとするが、どうせ聞かないだろうとため息を吐いた。ふと隣に座りこんだ高杉に目を移すと首筋に紅い花が咲いていた。
 
またか、と思う。
高杉にこういうものがあるのは当然で、たぶんこれからもずっと。わたしにはわからない高杉の温度や皮膚だとか、それに触れられる女の子がひどく妬ましい。


「それ、隠してくんない?」


トントンと数回首を指し示すとそれがなにを意味しているのか気づいたらしく、ああと頷いた。


「別にいつものことだろ」
「それを見せられるこっちの気にもなってくれないかな」


愛というものを嫌うこの目の前の隻眼の男は、快楽だけを貪る最低な野郎だ。自分の欲を満たすためだけに女の子に近づいて用が終わればポイ。それでもあとからあとから集まるのはやはりこの男が持つ色気のせいなのだろうか。

じいっとその首に咲いた花を見つめる。どうしてこんなに美しいのか。まるで高杉のためだけに咲いたみたいだ。…いや、そうなのだ。高杉のためにこの男のために散った花なのだ。


「ねえ、高杉」
「あ?」
「わたしのこと、抱いてよ」


そうしてわたしにもあんたのその白くて細い首に紅い花びらを散らせて。乞うような瞳でじっと見つめれば、高杉の目は鋭く変わった。


「お前も、そういうこと言うのかよ」
「たかす、」
「……そこら辺の女と同じじゃねえか」


そうだよ、高杉わたしは廊下を歩く女の子と、スカートの丈をずっと気にしているような女の子とおんなじなんだ。好きな人のために可愛くありたいと願うそんな普通の女なんだよ、わたしは。


「お前は、抱かない」


ぽつりとその一言を放って屋上から消えた。残されたわたしはぺたりと熱いコンクリートの上に座りこんで目を閉じた。よみがえったのはあの綺麗な紅


手に入れたい、たったひとつのあんたの愛を。



100810