小説 | ナノ


最初に幼なじみという関係を切り捨てたのはわたしから。女の子達に囲まれてあんたは晋助のなに?と問いつめられたとき、もうあいつと関わるのは止めようと決心した。まず名前で呼ぶのを止め、次に家に遊びに行くのを止めた。ふざけんな、と高杉に言われたがそれさえも無視していると時が経つにつれて全く話さなくなった。
それから高校に入り、顔を合わせることすらなくなった。廊下ですれ違うことはあっても目を合わせたり、話したりすることはない。寂しさを感じていたけど、最初に高杉との関係を切ったのはわたしだった。だからあのときはまだ幼かった、と自分を慰めることしかできなかった。

高杉はあれからいろんな女の子と関係を持つようになった。女の子は日がわりで変わり、昨日いた後輩のような子が年上の女性に変わったいたなんてよくある話だ。
実はわたしが高杉と離れたのにはもう一つだけ理由がある。それはわたしがあいつを好きになってしまったことだ。幼なじみという枠にはまったままの関係が苦しくて。抜け出したくて突き放した。そうすれば高杉はわたしを女として意識してくれるかもしれない、と甘い考えを持っていた。だけど叶うはずもなく。想いも告げられず、いいことなんてひとつもなかった。




「あ、高杉くん」


だけどその名前に反応してしまうのはまだ諦めきれていない証拠。友達の目線を追うと、高杉と女の子が言い合いをしているのが目に入った。一方的に怒っているのは女の子の方で、一発きれいな平手打ちを食らわせてその場から颯爽と去っていった。


「うわ、痛そ」
「そうだね」


友達が顔を歪めているのを横目に見ながらその光景が少しだけ羨ましく思えた。わたしはああやって喧嘩し怒ったり、叩いたりすることはもうできない。だってもう、繋がりがないから。



「そういえば高杉くん、転校するらしいよ」
「は?」


さらっと爆弾発言をした友達に思わず聞き返す。今、なんて?


「噂で聞いたんだけど、明日行っちゃうらしいよ」


女の子達悲しむんだろうな、という友達の声をどこか遠くで聞いた。
高杉が転校。信じられない、だってそんな。あまりにも急すぎて頭がついていかない。離れるなんて考えはこれっぽっちもなかった。側にはいられないけど高杉の姿はいつも見ていられる、と思っていたのに。

このままじゃだめだ。なにか強い意志のようなものがわたしを突き動かした。色んな人に高杉の転校の話を聞くと、明日の朝早く電車に乗って行ってしまうらしい。
目覚まし時計をセットして、いつもより早めにベッドに入る。だけどなかなか眠気はおりてこなかった。



次の日、寝不足気味の目を擦りながらベッドから抜け出す。バスを待っている余裕なんてない。自転車に跨がり、全速力でペダルを漕いだ。

駅に着くと、ホームまで走る。行かないでとは言わない。せめて話をしたい、あのときのことを謝らせて。黒髪が見えて、思わず立ち止まる。高杉は確かにいた。だけどその隣にはわたしの知らない女の子の姿。愛しそうにその子の髪を撫でて、最後にキスをした。たぶんあの女の子のことが一番大切なんだろう。ずっと高杉を見てきたからよく、わかる。
ああ、高杉の中ではわたしのことはすでに過去のことだったんだ。未練を残していたのはわたしだけだった。


ホームに電車が到着した。
途端、女の子が涙をこぼした。それを拭って最後にもう一度キスをして高杉は電車に乗りこんだ。




「しんすけ」


ちょうど電車の発車音にまぎれてその名前が届くことはなかった。ぽろりと一筋涙が落ちる。もう、彼はあんなに遠い



そして手を離した
思い出にさよなら



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