小説 | ナノ


「あ、土方さん」
「よお。……お前風呂入ったのか」
「お先でーす」

男所帯のなかで女隊士は生活していくのはものすごく大変だ。そのなかでお風呂はダントツ1位にくい込む。
時間を区切って使ったり、みんなが仕事の場合なんかにはわたしだけが何時間も使えることがある。今日はちょうどその日に当たっていて屯所にはすこしの隊士しかいない。

「土方さん、仕事は…?」
「今は休憩だ。現場には近藤さんと総悟がはりこんでる」
「ああ、なるほど」
「お前も今のうち休んどけよ、すぐに仕事だ」
「はい」

それじゃあ、と軽く礼をして自室に戻る。
ゆっくりお風呂に入ったのは久しぶりですごく気持ちよかった。でもこのあときつーい仕事が待ってるかと思うと気が休まらない。ふわあと大きなあくびをしたところで隊服の白いシャツがないことに気づいた。

「あれ、お風呂場に忘れてきたかな」

めんどくさいけどそのままにしておくわけにはいかないし。ため息まじりで立ち上がって、冷たい廊下をぺたぺた歩く。お風呂場の引き戸を開けると同時にむわんとした熱気が頬をなでた。一歩足を踏み入れた瞬間、変な音がして思わず動きを止めた。
すんすん。例えるならそんな感じ。ほかに誰かいるのかな…?とそおっと見てみると土方さんが座りこんでごそごそやっていた。なにしてるんだろうと思って背中ごしに見ると。

「っ!?」

わ、わわわたしのシャツを持って…はな、鼻を近づけてる!なんで!

「…春先っつってもまだそんな暑くねェからな…あんま汗かいてねーな。つか香水変えたか?」

ひいいい、なんでわかんの!今まで使ってた香水がなくなったから、最近新しいのに変えたのだ。それをこの人は匂いでわかるって!香水変えたこと知ってるってことは前からか、嗅いでたってことォォ!?

「いやァァァ」

あ、やば、耐え切れず叫んじゃった。

「なんだ、いたのか」
「……え」
「まず俺個人の意見から言わせてもらうと、前の香水のほうがお前にあってた。…まァこれも悪くはないがな」
「…トッシー?わたしの目の前にいるのはトッシーですよねいやそうに違いないそれ以外なんて認めない認めたくなァァァァい!」

なにこの目の前の人ダレ。土方さんの変装してなに言ってんの

「お前こそなに言ってやがる。あんなオタク野朗なわけねェだろ」

むしろトッシーであってほしかった。くずれ落ちそうになる膝をどうにか抑えつつ、土方さんに告げた。

「…とりあえず、真選組辞めます」