「なんか、その、悪ィな」 「謝らないでください!……あのわたしもなんかすいません」 「…お前も謝ってんじゃねェか」 「いや、他に言う言葉なくって」 鳥が穏やかにさえずる朝、わたしと2つ上の先輩の土方さんは半裸でこんな会話をしていた。 なぜ半裸なのかというと、答えはいたってシンプルだ。 飲み会でわけもわからず飲んでいて朝起きてみたらベッドの上。そして裸の土方さんが目の前にいたということで。よくドラマであるような、全然覚えてないのなにがあったの昨日のわたし達に!なんてことはなく、ばっちり夜のことを覚えていた。 「シちゃったんですよね…」 「ヤったんだな」 もう、隠すこともないし今さら赤面することもない。ため息とやるせなさだけが生まれる。 久しぶりの飲み会ではしゃいでしまい、ガブガブ飲んだ。そりゃもう浴びるほど。それからなぜか土方さんと一緒に帰ることになってなぜか部屋に行くことになって、なぜかそういうことをしてしまった。 いや、もう自分でもわからない 「…とりあえず服着ましょう」 「ああ、そうだな」 辺りにちらばった服をかき集めてお互い背を向けていそいそと服を着る。 …まだ、夢みたいだ 2つ上の先輩、それが土方さん。好きってワケじゃないけどカッコいいとは思う。現に女の子の噂のほとんどが土方さんにまつわることだし 自分がこんな軽い女だったこともびっくりだけど土方さんがわたしと寝たこともかなり衝撃的だ。 「おい、メシどうする」 不意に声をかけられてびくりと肩を震わす。 どうしようかと聞かれても困るんだけど 「あ、けっこうです。家帰らなきゃいけないし」 「………そうか」 着替えも終わり、足元にあったバッグをつかんでぺこりと頭を下げる。ようやく土方さんの家から出て、そこではじめて自分のしてしまったことの重大さに気づいた。 後悔とか、そういうもので表せられないほどの思いが積もっていく。そうしてたどりつくのはやっぱり、土方さんが選んだのがどうしてわたしだったのかということ 誰でもよかった、と言われてしまえばそれまでだけどどうしても気になる。 なんで、わたしだったのだろう 「おはよう」 「おはよ」 翌日、出勤するとすでに土方さんは机に座っていた。あんなことがあってからやっぱり意識してしまい、ぎこちなく自分の席につく。 パソコンの画面を見ると、向こう側に座る土方さんの顔をちらりと見てしまう。対称的に土方さんはいつも通りのポーカーフェイスでわたしだけが意識しているみたい。 「ね、」 「なに?」 「今日空いてるかって部長が」 「え、まさかまた飲むの?」 2日前に飲んだばっかりなのに、と唖然とする。そんなわたしの顔を見て友達も苦笑いを返す 「部長がお祝い事好きなの、今に始まったことじゃないでしょ?」 「まあ…そうだけど」 「じゃあまたあとで」 肩をぽんと叩かれてため息。そりゃあ部長である近藤さんは優しくていい人だけど、なんであんなに宴会好きなんだろう。 みんなで集まるのが好きなんだというのはわかるけど、あんなことがあったのにお酒なんてもう当分飲めない。とりあえずウーロン茶でも飲もうと小さく誓った。 「部長ー、いいぞー!」 「もっと脱いでくださいよ」 わいわいがやがや またかよ、と文句を言ってた同僚の男の子も顔を赤くして笑っている。なんだかんだみんな騒ぐのが好きらしい。 さんざん勧められたお酒を断ってジュースやお茶など飲み会にしては盛り上がらないものばかり飲む。仕方ないとは思いつつ、やっぱりアルコールが恋しい。 「なんだ飲んでねェのか」 「土方さん、」 どかりと隣に座りこんできたのはまさかの人 片手にはビールが半分ほど入ったグラスがある。 「土方さんは飲んでるみたいですね」 「ああ、近藤さんに勝手に注がれた。まァ少ししか飲んでねーけど」 あの人ならやりかねない、と頷く。それにしては土方さんの顔真っ赤なんだけどとは言わないでおく。 オレンジジュースを口にしながら、土方さんはまったく反省してないんだなとひっそり思う。またあんなことあったらシャレにならないはずなのに 「…今、俺のこと馬鹿にしたろ」 「ええっ」 「顔に出てんぞ」 むっと不満そうに口を突き出す姿は、いつもの土方さんとは似ても似つかない。もしかして絡まれてる?と気づくもすでに遅い。 「………俺だってあんな風にするつもりじゃなかった」 「はい?」 「あの日、お前が隣で酒飲んでて」 土方さんが話しているのがあのときのことだと気づいて慌てる。騒いでいるとはいえ、みんないるのに 「ちょ、土方さん!」 「ぐだぐだに酔っぱらってんのわかっててそのまま家までつれてった」 「…………え」 「ずっと好きだったから、酔ってんのに卑怯だと思ったけど」 「ひじかた、さん…?」 「抑えらんなかった」 この人は、土方さんは一体なにを言ってるんだろう わたしが酔ってたのを知りながらお持ち帰りした、とかずっと好きだったとか そんなのドラマでさえやってないべたべたのフレーズ 「悪ィ」 一言そう言ったあと、こてんと頭をわたしの肩に預けてそのまま寝息をたてている。残されたのは真っ赤になったわたしと、ドキドキと甘く高鳴る心臓 隣ですーすー寝ている土方さんはもうしばらくは目を覚まさなそうだ。 「……どーしよ」 とりあえず今日はわたしがお持ち帰りしようかな ―――――――――― キリバン130000・亜梨沙さまへ 101023 |