小説 | ナノ


「…みず」


喉の異常なくらいの渇きと二日酔い特有の頭の痛さに目を覚ました。寝覚め最悪のまま、台所でコップ1杯に水を注いでそれを一気に飲み干す。喉の渇きが癒えれば次は腹がグー、と鳴る。空腹を訴えたそこをさすりながらふと気づいた。


「あいつは?」


起きれば俺より早く起床していて、すでに朝食が旨そうな匂いとともに用意されているはずなのに。顔も声すら聞いていない。不思議になって部屋中、いや家中探してみても姿はない。
昨日なにがあった、と必死に思い返してみれば。


「…あ」


心当たりがある。
急にさようならと言ったきり戻ってきていない。いやいやいやいやないない。ありえない…よな?誰に問いかけたかはわからないが、ただ確証が欲しかった。あいつは出ていってなんかない。捨てられたんじゃない、と。
だって俺たちまだ新婚だしィ。そりゃあ最近シラフの状態で会ったことは少なかったかもしれないけど。キャバクラとか行って帰るのが遅くなったりしたけど。でもまさかそれが理由なんかじゃねェ…違うよな。


「いつまでもちちくりあってんじゃねェぞマダオ!」

「ちょ、神楽ちゃん」


どたどたと騒がしい音がすると思ったら、いつものガキ2匹が立っていた。ひとりはニヤニヤとムカつく笑みを浮かべて、もうひとりはあたふたとしながらこちらをすまなそうに見ていた。


「神楽、新八」

「新婚だからっていつまでもイチャつけると思ってんじゃねーヨ」

「ていうかここお酒臭いですよ。また呑んでたんですか」

「どおしよォォォ!いなくなっちゃったよォォ!」


はァ?とかなに言ってるアルとか言われて、それでも涙ながらに説明すればようやく事の重大さが伝わったらしく。


「なにやってるアル!はやく探せヨ!!」

「携帯には連絡したんですか」


そうだ、言われてみればまだ連絡も探してさえいない。すこしの希望を持って黒電話を耳に押し当てるとどっかのお姉さんが電源が入っていないか…とお決まりの言葉を言うだけで一向につながる様子はない。無言でガチャリと電話を切るのを見たとたんに僕探してきます、定春行くヨ!とガキが飛び出して行くその後ろ姿に続いて俺も家を飛び出した。



何時間探したのか。時間の感覚などとうになくなっていた。心当たりのある場所は全部探した。肩を落として家まで戻れば、新八も神楽も俺と同じような顔をしていて結果がすぐわかった。


「どこにも、いないみたいですね」

「…銀ちゃんあれ!」


神楽の指差したほうを見ると大きな荷物を抱えながらひょこひょこ歩くあいつの姿が見えた。堪らなくなって駆け出す。


「銀さん」


驚いたように目を丸くしたそいつを荷物ごと抱き締めた。


「心配した」

「…ごめん」

「ずっと探してた」

「ごめんね」


出ていった原因が俺にあることも、こいつが今まで我慢してきたであろう苦しみもよくわかる。こんな風になるまでひとりで耐えてたなんて。


「悪い」

「…!」

「今回のことは全部俺のせいだ」

「ぎん、」

「でももう一人でどっか消えたりすんな。俺を、頼れよ」


そのための夫婦だろーが。ぼそりとそう言って腕に力をこめるとごめんと小さな声で謝るのが聞こえた。




END
title 絶頂