小説 | ナノ
※刑事パロ



「あのー、いい加減仕事しません?」
「あー、無理無理。今ジャンプ読んでっから」
「1時間前と同じセリフ言ってるんですけど」

薄汚いソファに寝そべって漫画を読みふけっている銀髪を見て、ため息が落ちる。刑事になって先輩である坂田さんとコンビを組んで数ヶ月が経った。甘党でジャンプが大好きなサボり魔。それが最初のイメージ。そのイメージが変わることなく、むしろ悪くなる一方。坂田さんと一緒になった自分の運の悪さを恨むことしかできなかった。
でも、なぜか坂田さんの周りには自然と人が集まっていって輪ができる。坂田さんがその人達から得る情報には何度となく助けられた。だから決して悪い人ではないのだろう、と思うけど。

「あ、電話」

プルル、という特有の音が鳴って坂田さんが寝転びながらぽつりと呟いた。それから電話取れという目でわたしを見つめる。
しぶしぶ重い腰を上げて古ぼけた電話を手にとった。

「はい」
『俺だ』
「お疲れさまです、土方さん」

電話は同じ課に所属する土方さんからだった。土方さんは坂田さんとは月とスッポンの存在で、その業績は素晴らしいものだ。わたしの目標であり、尊敬する人でもある。

「坂田はいるか」
『あ、一応いますけど…サボり中です』

ちょ、言っちゃダメ!と慌てる坂田さんを一瞥して話を続ける。

「なにか用ですか」
『例の麻薬密売人の居場所がわかった。これから一斉摘発する』
「はい」
『つーことでお前らにも応援頼む』
「わかりました、すぐ向かいます」

住所をメモして指示をあおぐ。事細かにすべて書き留めてそれらを頭にたたき入れる。

『あ』
「他になにかありますか?」
『それが終わったら今日飲みに行くってよ』
「え、」
『お前の誕生日祝いまだだったろ』

言われてああ、と声をもらす。わたしの上司である近藤さんはそれはそれは優しくて部下思いの人で。誰かの誕生日があれば必ず課のみんなで祝う、ということを恒例行事としてきた。わたしの誕生日を先月で、ちょうどその頃大きな事件があってここまでずれこんでしまったのだ。
でもそのことを土方さんがわたしに…!軽い感動のようなものをおぼえて、にやける口元を押さえながら返事をする。

「それじゃ、失礼します」
『ああ』

ガチャリ、と電話を切ってからうへへと怪しい笑い声をあげる。ダメだ、我慢できそうにない。

「なーにニヤニヤしてんの」
「さ、坂田さん」

ズシッと背中に重みを感じて何事かと思ったらさっきまでソファでだらだらしていた坂田さんがおぶさっていた。

「あ、の重いです」
「…土方くんのこと好きなの?」
「ぶふっ」

思わず吹いてしまった。急になに言い出すんですか!と怒ると耳赤いよー、と指摘された。確かに熱を持っているみたいだ。

「好き、じゃないですけど。ていうかなんでそれを坂田さんに言わなきゃいけないんでしょーか」
「…ムカつくなあ」
「なにが……うむっ」

振り返ると唇をなにか温かいものに塞がれて、目の前には坂田さんの顔があって。キスされている、と理解するまで数秒かかった。

「ギィヤァァァ!」
「うるせ…急に叫ぶなよ」
「なななにしてんすかあんたァァ」
「なにってキス」
「知ってますよ言わないでください!」
「聞いてきたのそっちじゃん」

くるり、と背を向けると髪の毛をぽりぽりと掻いてよれよれになったスーツを羽織った。行くぞー、とやる気のなさそうなかけ声でようやく我にかえる。

「あ、一斉摘発!」
「だからはやく用意しろって」
「遅れたら土方さんに」

怒られちゃう、と言い終わる前に両手を壁にぬいつけられて身動きができなくなっていた。それをした犯人は先ほどと同様、坂田さんだった。

「次に土方くんの名前出したら襲うから」

にやりと悪魔のような笑みを浮かべてようやく手が自由になった。ずるずるとその場に座りこんで力が抜ける。…なんなんだ、あの人。
掴まれた腕が以上に熱くて、頭の中ではこれから土方さんをなんて呼ぼうかそればかり考えていた。


091023