Phantom | ナノ


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ほしにはなれない


車のクラクションや電車が走る音。ビルの屋上に座っていると街がどんな風に夜を過ごしているか、よくわかる。
なまえが寝たのを確認してからふわふわ飛んでこんなとこまで来た。ひとりで考えていたかったから。

パタパタ足を動かしてごろりと寝そべる。服が汚れるとかそういうことを気にすることはないので気楽だ。星を眺めながら昔先生に教えてもらったことを思い出す。


『せんせ、』
『どうしました?』
『人って死んだらどこに行くの?』
『天国に決まってんだろ、バカか天パ』
『うるせェ!高杉にゃ聞いてねーよ』
『…人は星になるんですよ』
『ほし?』
『そうして、大事な人を天から見守っているのです。』


じゃあ今も先生はどこかで俺や高杉、ヅラ、辰馬を見守ってんのかな。無限にある星を数えながらそんなことを思う。
人が死ぬって案外あっけない。俺がこうなってしまうなんて自分自身知らなかったし。ぶっちゃけ今だって実感なんかねーけど。



「どうだ、死神の仕事は」
「うわっ!……急に現れやがって。ビビらせんなよ」


どくどく波打つ心臓(んなもんあるか知んねェが)を押さえて背後に立ついつぞやの死神のおっさんを見る。


「あと、1週間だぞ」
「…………知ってらァ」
「もう少しでお前はまた人間に戻れる」


生きた、人間に。
だけどその代償はでかすぎる。そうまでして本当に俺は生きたいのか。


「せいぜい今の生活を楽しんでおくんだな」


にやりと笑ってあと、おっさんは消えてしまった。ぽつんと残された俺はまたぐるぐると考える。答えなんて出るんだろうか。




「銀!」
「…………え?」
「何回も呼んでるのに。だいじょぶ?」
「ああ、悪ィ。…でなんだっけ?」
「今日なんにもないならついてきてほしいところがあるの」
「いーけど」


どこに行くとかなんも教えられないまま、歩き出すなまえの後ろをついていく。


「遠いのか?」
「そうでもないよ。電車乗って何分か歩くくらい」
「へー」


ふとヴヴヴと携帯のバイブ音がして、なまえはカバンから取り出したそれを耳に押し当てる。聞きなれた声の合間に男の低い声がした。なんでもないようにしながら耳はがっつりなまえのほうを向いていた。楽しげに話す様子にイライラしながらも話し終えるのをひたすら待つ。


「……誰から?」
「友達。これから出てこれないかって」
「ンなこと言って実は彼氏なんじゃねーの?」


実はコレ、俺が死んでから気になっていたことだった。涼しい顔して内心バックバク。


「ふふっ」
「なに笑ってんだよ」
「やけにつっかかってくるなーって思って。…あ、もしかしてヤキモチ?」
「っ、なわけねーだろ!」


くすくす笑うなまえにつくづく自分が駆け引きに向いてないことを痛感する。ひとしきり笑ったあと、彼氏なんかいないよと聞きたかった言葉をくれた。
ふう、とバレないように息を吐いてひと安心。


「ついたよ」
「………ここ、って」
「そ。銀時のお墓」


目の前に広がっていたのはでかいのやらちっぽけなモンやらとにかくたくさんの墓石。導かれるままに初めて自分の墓を見つめる。こうして見れば他人のもののように見える。
ぼんやり突っ立っていると手に持ったビニール袋からいちご牛乳とお菓子を数個取り出して墓の前に供えはじめた。


「…甘いもの、好きだったから」


懐かしむような口調。言葉にできない気持ちにぎゅっと唇を噛む。


「どうしていなくなっちゃったんだろ…まだハタチにもなってないのに。やりたいことだっていっぱいあったはず、なのに」


それから肩を震わせて、地面にシミができた。なまえの感情が、今の俺には痛い。
すっと視線をそらして視界から追い出す。握った拳がわずかに震える。


「……………ックソ」


ぽつりともらしたそれが偶然にも聞こえたらしく、珍しくなまえがわたわたと慌て出した。


「ごめん!しんみりするつもりじゃなかったのに」
「違ェ、そうじゃなくて。……約束守れなかったから」
「約束?」


付き合っていたころ、なまえと約束したことがある。まあ、あいつが覚えているかはわからないけど。
『そばにいてやるよ』
『銀時』
『俺がなまえのそばにいるから』
『……銀時』
『なんだよ』
『顔、真っ赤だよ』
『るせーな!』
『…………ありがとね』

悔しい。ただ、それだけ。そばにいると誓ったのにそれを先に破ったのは俺のほう。


俺の背中をじっと見つめるなまえにうつむく俺が気づくはずがなかった。





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