浮かんだ面影俺が死んだ世界はさほど変わっていないと思っていたけど、そうでもないみたいだ。辰馬や高杉やヅラ、なまえだって。そりゃあ世界規模じゃないが、誰かひとりの世界を揺るがすほどの存在を俺を持っていたらしい
でも、寂しいと感じてしまう
「ギン!」
屋上でまどろんでいると、ぱたぱたとなまえが駆けてきた。いろいろ探し回っていたようで、息を切らしている。
あ、キスしたい
「どこ行ってたの?ずっと探してたのに」
「……悪ィ」
帰ろう?と笑うなまえに頷いてその隣をふわふわ飛びながらついていく
途端、フラッシュバックのように生きていた頃を思い出した。今していたみたいになまえと手を繋いで下らない話をして帰っていた。真っ赤な夕日とこいつの横顔。あまりの衝撃に足を止め、頭を抱える。
「…?どうしたの」
「っ、なんでも、ねェ」
ふう、と息を整える。大丈夫、問題ない
行こーぜと声をかけてもう一度歩き出す。
「ギンはどうして死神なんてやってるの?」
帰り道、不意に投げかけれた質問に面食らう。どうしてって聞かれてもホントのこと言えるわけないし
「…自分でも、よくわかんね」
半分ホントで、半分嘘
自分が生き返るために死神という選択をしたがそれは目の前にいるこいつを殺すこと。なまえのために生きたいのに、殺さなきゃならねーなんて。矛盾だらけで自分でもどうして死神なんてもんを続けているのかわからない
止めちまえば、一番楽なんだけどなァ
「……死神って死んだ人間が見えるの?」
なまえが立ち止まって俺の目をまっすぐ見つめる。その顔にはなんの感情も浮かんでいない。
死んだ人間が見えるっつーか、俺がそれにあたるし。なんて答えればいいのかと髪をボリボリ掻きながら脳をフル回転させる。
だけど俺の答えを待たず、さらになまえは続けた。
「会いたい人がいるって前に言ったでしょ?」
「それって…」
「そ。ギンが最初に現れたとき、間違えた人。坂田銀時って」
俯きながら吐き出された言葉に心臓が跳ねる。久しぶりに呼ばれた名前に懐かしさを覚えた。
「わたしの彼氏だったの、その人。だけど」
「死んだ、だろ?」
「…うん」
泣いてるんじゃないかとこっそり隣にいるなまえの顔を盗み見た。だけど俺の予想に反してふんわりと笑みが浮かんでいる。
「大好きだったんだ。ずっと一緒にいるって約束したのに。なのに交通事故でいなくなっちゃった」
自嘲ともとれるその表情になにも言えなくなる。
俺はここにいる、と叫びたくなる衝動にかられけど、あのおっさんの言葉を思い出してぐっとのみ込む。今の俺にはただ拳を握りしめることしかできない。
「だから、会いたい」
「会いたいの」
ああ、どうして
どうしてこの手はなにも掴めない。どうして好きだと何度も囁けない。どうして俺は死んじまったんだろう
ごめん、としぼりだすように小さく謝れば不思議そうな顔をして俺を見る。謝ることしか、できない
歯がゆい
もどかしい
抱きしめたい
もう一度、生きたい
消えては生まれ、生まれては消えていくいろんな感情にもまれるようにしてその場に立ち尽くす。
「ね、ギン」
「…」
「死神って死んだ人間が見えるの?」
なまえは2度目になるその質問を口にした。
「俺には死んだ人間の姿は見えねェ。けど、死んだやつを思い出すときは空を見ればいい」
昔、俺の大切な恩師に習ったこと。死んでしまった人はもう戻っては来ないけれど、星になって俺たちを見守っているのだと。だから誰かいなくなった人間を思い返すときは空を見上げればいい。
俺の言葉を聞いた瞬間なまえの目が大きく見開かれた。
「……それ、」
「なに」
「銀時も言ってた」
んなこと、すっかり忘れてた。バレたか?と少し焦りながら、でもそれと反対に気づいてほしいと思いながら地面に目をやる。
「やっぱり似てる、ギンと銀時」
にっこりと微笑んでそれを俺に向ける。
はやく帰ろうと数メートル先を行くなまえの背中から目が離せなくて、ずうっと見つめ続けた。