Phantom | ナノ


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地球は確実に廻っているから


俺が死神だと名乗ってから1日が経った。それでも普通になまえは生活していた。


「ギンも学校に来るの?」
「着いていかなきゃいけねェからな」
「ふーん」


制服を着たなまえの横をふわふわ浮きながら行く。久しぶりにこんなに動く人を見た気がする。
俺の生きていた頃とまったく同じ世界。サラリーマンは忙しそうに時計を見て、小学生はカタカタとランドセルを揺らしながら走る。そういう当たり前が目の前にあった。


「…ギン?」


ぼうっとしていたのを不思議に思ったのか、なまえが声をかけてきた。なんでもないと返せば、前を見て信号が青色になるのを待つ。


「外ではあんまし俺に話しかけんな。不審に思われる」


そう告げれば、小さく頷く。
信号がぱっと変わりガヤガヤと人が行き違う。俺の体をすり抜けて足を進めていく。もうぶつかって不快な気分になることもねーんだ。そう考えると、なんか虚無感


教室まで着いていく途中、高杉たちを見つけた。心臓が跳ねて痛い。なまえはそんな俺に気づかず、自分の教室に一足先に行ってしまった。
すこしだけ。俺は3人のほうへ方向転換


「ッチ、おい辰馬10円寄越せ」
「足りんのか?ほれ」
「坂本、高杉、俺のエリザベスを知らないか!?」
「あの気色悪ィ生き物なんて知らねーが」
「気色悪いとはなんだ!エリザベスはなァ…」


………なんだこいつら
俺がいなくなってどれだけめそめそしてんのかと思ったら。いつも通りすぎる。俺が死んでからある程度時間が経ったと言えど、これはねェんじゃねーの?
俺がいなくなった穴はきれいに埋められていて、最初から自分はいなかったんじゃないかとさえ思う。
俺がじろりと3人を睨んだと同時にチャイムが鳴って、あいつらは教室に移動した。やることもなく暇なのでとりあえず着いていく。

授業中はというとヅラは真面目に板書をして、辰馬はぐーすか寝ていた。高杉は一番後ろの席で好き勝手している。しばらく授業風景を眺めていたけど内容はもうまったくと言っていいほどわからなくなっていた。だいぶ進んだなァ、とぼんやり思う。
数十分もすればその行為にすら飽きてきて、仕方なく高杉の背後にまわり一緒に漫画を読んだ。




「先行ってるぞ、高杉」
「あァ」


昼休み、ヅラと辰馬は一足先に屋上に向かい、高杉は売店へ足を運んだ。俺はひょこひょこと辰馬の後ろに続いていった。


「なに買ったんじゃ?」
「カレーパン」


がさがさと今買ったばかりのそれにかぶりつく。
俺はこの体になってから寝なくても食べなくても平気になってしまった。だから旨そうな匂いが鼻腔をかすめても腹がぐるぐる鳴るわけでもなく、ただカレーパンてどんな味だっけ? と考えるしかできない。悲しいかな、もうイチゴ牛乳もパフェも饅頭も口にすることができない。


「あ、これ3組の女の子から貰ったきに」
「なんだそれ」
「焼き菓子、か…?」
「わしゃ、腹がいっぱいでのォ。おんしら食べるか?」
「んなクソ甘いもん、銀時に………」


高杉が俺の名前を口にした途端、その場が静まりかえる。言ってはいけないことを口にしたかのように


「…悪い」
「いや」


高杉が謝ると気にするなとヅラが首を振った。その2人の様子を見て辰馬が微笑む。


「そうじゃ、金時にあげればええ」
「坂本…」
「墓に添えてやれば喜ぶきに。じゃからそんな暗い顔したらいかんぜよ」


にっこりと満面の笑みを浮かべながら高杉とヅラを見る辰馬に不覚にもジン、ときてしまった。

あまりにも普通すぎて、こいつらは俺がいなくなっても平気だと思っていた。だけどそうじゃなくて。
ぽかりと空いたでかすぎる穴を見ないよう、必死だったのかもしれない。足りないものを補おうとなにか代わりを探していたのかもしれない。
人が死んでからつらいのは残された者たちだと、いつか誰かが言ってたっけ。



目の前にいたのはあの頃馬鹿みたいにふざけていたやつらより、すこしだけ大人になった3人の友達





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