生と死と愛と絶望星がキラキラ光るようになったころ、ようやくなまえを探しにいくことを決意した。こんなとこでぐちゃぐちゃ悩んでいたって仕方ない。すくっと立ち上がり、とりあえずあいつの家に向かうことにする。
幽霊(らしきもの)になってから気づいたこと。まず1つは物を通り抜ける。2つめは空を飛べるということ。飛ぶというより浮いているに近いが、ふわふわと空中を浮遊するのはけっこう気持ち良かったりする。
たまに道を歩いている人を見かけると、見えていないのを知りつつも得意げに一回転する。
こんな体でも、悪くねーかも
ぽつぽつと家の灯りが見えてきて、ある一軒家の前に降り立つ。見慣れた表札を確認して、これからどうするか思案する。通り抜けられるからといっていきなり彼女の家に上がるのはいくら俺でも気が引けるし。
仕方なしにあいつの部屋まで飛んでみることにした。
ふわふわと浮きながら窓を覗きこむ。なまえの姿が見えないので、おそらく風呂かトイレだろう。
お邪魔しまーす と小さく呟いて部屋に入る。年ごろらしい女の子の部屋ではなく、いたってシンプル。ピンクだのなんだのと派手な色がないこの部屋が俺はまあまあ好きである。
生きていたころに数回、彼女の部屋に来たことがある。ここで手も繋いだし、キスもエッチもした。そう思うとなんだか無性に気恥ずかしくなり体がかゆくなる。バリバリと髪の毛を掻いてどうにかやり過ごす。
「銀時…?」
不意に呼ばれた名前に振り返れば、会いたくて会いたくてたまらなかったなまえが、いた。
あ、れ?普通の人間に俺の姿って見えないんじゃなかったっけ。
『死期の近い人間には死神の姿が見える』
おっさんの言葉を思い出す。……やべ、忘れてた
「銀時、なの?」
数歩歩いて手を伸ばす彼女。だけどごめんな。その手に触れることはできない
今にも泣きそうな大きな瞳には透けた俺が写っていた。
「…………銀時って誰?」
素直じゃないのは生まれつき。嘘つきなのは昔から。自分は自分じゃないと否定しないと勘違いしそうだった。俺はまだ生きているのだと。
「俺はギン。悪いけど、あんたの言う銀時っつーやつじゃない」
「……う、そ」
「だってそいつ死んでるんだろ?」
残酷な言葉を吐く。
傷つけたいわけじゃねーのに
自分の気持ちとは裏腹にするすると言葉は生まれてくる。
「俺は死神。あんたの魂もらいにきた」
まっすぐになまえを見つめる。俺の気持ちがどうかバレないように願いながら
「…わたし、死ぬの?」
「まあな」
「よかった」
予想していたものとは似ても似つかない言葉に目を見開く。死神なんてありえない、信じるわけないと言われるのだと思っていたのに。
それなのになまえは、柔らかく微笑んで安堵のような表情を浮かべている。
「死にたいのか、あんた」
「死にたいっていうよりある人に会いたいの」
「ある、人……?」
「あなたにそっくりなの。坂田銀時っていう人」
ぎゅうっと心臓が掴まれるような感覚。思わず俺はここにいる、お前の目の前にいると告げたくなる。
「…………ギン?」
急に黙った俺を不審に思ったのか、顔を覗きこんできた。慌ててなんでもないような表情をつくる。
「あんた、俺を信じるの?」
「自分が死神だって言ったくせに。変なの」
くすりと笑うその頬に、さらりと揺れるその髪に、今すぐ触れてこの胸に閉じこめてしまいたい。
伸ばしかけた手をひっこめて空をさ迷ったそれで髪の毛を掻いてごまかした。
「あんたが死ぬまで俺は一緒にいなきゃなんねェんだ」
「それってどのくらい?」
おっさんに渡された紙の内容を思い出して、ぐっと眉をひそめる。
「あと、一ヶ月後」
「…そう。それじゃあそれまでよろしくね、ギン」
あの頃と同じように笑いかける。ただひとつ違うのは彼女が生きていて、俺が死んでるということ