Phantom | ナノ


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嘘でも幻想でもない


俺は死んだ。
家に帰るためチャリンコに乗っていたら突然飛び出してきた車に跳ねられて死んだ。前見ろコノヤロー!と文句さえ言えずに俺は宙を舞った。トリプルアクセル〜とか冗談言ってる場合じゃねェ、マジで。
次目を覚ますと白い空間にいた。白、白白白。無機質なその場所をキョロキョロ見渡しているとひとりの男が立っているのに気づいた。


「あんた誰」
「…」
「ここどこ」
「…」
「俺死んだの?」
「ああ」


そこだけ即答かよ。
男の答えを聞いて妙に納得。やっぱ死んだんだ、俺。じゃあここ天国?どーりで白いはずだ。


「もしかしてあんた神様?それとも天使?」
「どちらでもないな」
「へェ?じゃー何者?」
「……死神だ」


死神って死んだやつの前にも現れんの?うそん


「俺になんか用でもあんの?」
「…お前、驚かないのか」
「べつに驚きゃしねーよ。自分が死んでる時点で他に驚くようなことねェしな」
「そうか」
「……で?あんたがここにいる理由ちゃんと説明しろよな、死神サン」


寡黙だと思っていた男は意外にもペラペラと話しはじめた。
俺がいるこの空間は天国との中間地点らしい。そして死神がここにいる理由、それは


「スカウトォォ!?」
「平たく言えばそうなる」
「なんで俺?てかなんだスカウトって!」
「お前には死神になる資格がある。このまま天国に行かせるのももったいないからな。どうだ、死神になってみないか?」
「なんだその気軽なノリ!トイレ行こうぜみたく言うな!!」


なんだ死神って!俺が死神で死神が俺?ヤバい、混乱してきた。


「タダでなれとは言わん。一度でも死神になればお前をもう一度生き返らせてやろう」
「……………それ、マジ?」


こくりと深く頷いたのを見て心が揺れ動く。死神になれば生き返れる。しかも、一度だけでいい。
…もし生き返れるならまたあいつに会える。


「……わかった。やってやるよ、死神ってやつ」
「その言葉、忘れるな」


交渉成立、らしい。にんまりと笑うと男は死神の仕事について説明をはじめた。


「お前にしてほしいことはたったひとつ。死ぬ予定の人間の魂を取ること」
「た、ましい…?」
「そうだ」


アニメとかドラマでしか見たことねーよ、こんな展開。魂イコール命だよな?俺が一人の人間の人生終わらせるってことか?


「…どうやって魂取んだよ」
「その人間に死期を伝え、そいつが死ぬまで一緒にいればいい」
「死期を伝える、って俺らのこと見えんの?」
「ああ。死期の近い人間は死神の姿が見える」


疑問はまだあるが、とりあえず俺がすべきことはわかった。死期を伝えること。その人間が死ぬ瞬間まで一緒にいること。これだけでいい。


「よし、わかった。で俺が魂取らなきゃいけない人間って誰?」
「こいつだ」


見せられた紙には写真とその人間の情報が載っていた。その紙を手にした瞬間、目をみはる。


「うそ、だろ……」


それに書かれていたのは、あいつの名前だった。





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