チキンレース | ナノ




なんだか最近沖田くんが変だ。前より攻撃的になったり、でもたまに優しくなったり。


「わたし、なんかしたかなあ」


なにを思ってそういうことをしているのかわからないけど、たぶんわたしのせいなんだと思う。
心当たりはないけど、知らず知らずのうちに沖田くんを怒らせてるんじゃないかな


「あ、の沖田くん」
「チッ、なんでィ」


ぎろりと睨まれてすこしビビる。それでも、と言葉を選んで話しかけた。


「なんかその…ごめんね?」
「あ?」
「だ、だってわたしに対してなんか怒ってるんでしょ?だから、ごめん」
「お前、俺が怒ってる理由わかってんのか」
「いや、わからないけど」
「……次謝ったら殺す」
「ええええ」


そういうやりとりがあっても、やっぱりまだ沖田くんはすこしおかしかった。でもたまに沖田くんの目がなにか言いたげに揺れているのをわたしは知ってる。それを指摘すれば、また怒られたりつねられたりするだろうからなにも言わないでおく

ぽかぽかと暖かなある日、事件は起きた。大学の大きな木のところで沖田くんにお昼ごはんをせびられていたとき


「ドエスゥゥウ!」


だだだっと走ってきたなにかが沖田くんを勢いよく蹴飛ばした。ぽかんと口を開けたまま突っ立っていると女の子がぐりぐり沖田くんを踏みつけているじゃないか…え、女の子!?


「こんのガキャアア!ケーキにタバスコ仕掛けやがってェエ」
「なんでィ、チャイナ。俺からのプレゼンツになにか問題が?」
「問題ありまくりネ!」


ふんっ、と腰に手をあてながら息を吐く女の子をただただ見つめる。あの沖田くんと張り合ってる…!
それからまた乱闘をはじめたふたりを見ていたわたしの肩をだれかが叩く。


「よっ」
「……坂田さん」


久しぶりですね、という言葉は脳内に消えてぺこりと頭を下げる動作に変わった。


「あーあーハデにやってんなァ」
「…あの女の子とお知り合いですか?」
「知り合いっつーか、保護者みたいな?」
「まさか子ど「それ俺に対する侮辱だから」
「……沖田くんとは、」
「ケンカ仲間っつー感じかねェ。会えばいつもケンカしてるよ、あいつら」
「へえ」


気になる?とにまにましながら聞かれて、慌てて否定する。ただすこし疑問に思っただけだ
そろそろ止めろと女の子の首ねっこを掴んで引きはがした坂田さんはすごいと思う。ようやく落ち着いたらしく、互いにメンチを切りあっている。


「ど、どうも」


ふと女の子と目が合って、ぺこりと小さく頭を下げた。じいっとわたしを見て、それからまた沖田くんを見てぽつり


「…こいつの女アルカ?」
「ち、違います!断じてそんな関係ではありませんっ」


間違えられるのははじめてじゃないので、首を振ってきちんと否定する。沖田くんだってわたしが彼女なんて間違えられたら迷惑だろうし。
ちらりと沖田くんの表情を伺ってみると、なぜか不機嫌まるだし。ちゃんと否定したのに、と焦っている一方で坂田さんはおもしろそうに目を細めていた。


「おら神楽、そろそろ行くぞ」
「まだ勝負は終わってないネ!」
「はいはい、また今度な」


沖田くんと女の子(神楽ちゃん?)が暴れたせいで、教授やら生徒やらがなんの騒ぎだと集まってきたので坂田さんはうるさく言われないうちに帰ってしまった。わたしたちもそれに倣ってそっとその場を離れる。



「あの、沖田くん」
「なんでィ」
「あの子と知り合いなの?」


坂田さんはケンカ仲間なんて言ってたけど。ぽつりとそう口にして沖田くんを見るとにやりと怪しく笑っている。


「お前には絶対ェ教えねえ」
「え?」
「一生気にしてろィ」


そう言い捨てて、至極楽しそうに口笛を吹きながらどこかに行ってしまった。


「………なにそれ」


さっきまで不機嫌だったくせに、もう機嫌治ってるし。やっぱり最近の沖田くんは前より増しておかしい気がする。


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