チキンレース | ナノ





「メアド教えてー」
(えええ、いきなり!)

「名前なんつーの?」
(呼び捨てする気なの?!)

「隣座っていい?」
(な、ちょ、待って)


大学生になってそりゃいろんな飲み会やらに参加して男の子と知り合いになった。なんでもないように笑っていたけど、心の中はどっくんばっこん。
中学高校と女子高に通い、オトコという生き物を知らずにいた。それが目の前にこんなたくさん!小学校の古い記憶を呼び起こしてどんな風に接していたかを思い出す。曖昧にへらへらと笑っているけどものすごく、疲れた。ちょっとトイレ行くねと席を立って外へ出る。


「ふぅー」


お酒を飲んで熱くなった体を冷ますようにひんやりした風が頬を撫でた。パチンと携帯を開くとアドレス帳には初めて見る名前がたくさん並んでいる。誰だっけと、ひとりずつ顔を思い出しながらそれを眺める。


「気分でも悪いんですかィ?」
「!」


顔を上げるとさっきまで飲み会にいた人。たしか、同じ学部。


「えーと、」
「もしかして俺の名前忘れたんですかィ?ひでェや」
「………ごめんなさい」
「うっそー。俺さっき来たとこ」


うっぜぇぇぇええ!
なにこの人めっちゃうざいんだけど!!どうでもよさそうに携帯いじってるんだけど!


「あ、今俺のことムカつくとか思ったろ」
「ちがっ」
「大丈夫でィ、俺もあんたのこと嫌いなんで」


…………なんだろうこの人。ものすごい疲れる。
ぐったりとその場に座りこんでため息を吐く。そんなわたしの姿を満足そうに笑って隣に腰かけてきた。


「あんたおもしろいな。名前は?」
「……名字名前ですけど」
「俺ァ、田中マイケル慎太郎」
「は!?」
「ハーフなんでィ」


言われてみれば髪の毛も目の色も個性的だ。ふうん、と相づちを打って立ち上がる。


「飲み会に来たんですよね?」
「あァ。めんどくさいから遅れて来た」
「わたしそろそろ行きますね。えーと田中…くんはまだここにいる?」
「俺も行くわ」


よいしょ、というかけ声とともに立ち上がって一緒にお店の中に戻る。
ドアを開けた瞬間、視線が突き刺さる(特に女の子)。すすすっと友達の元へと向かって隣に座る。


「名前、あんた知り合いだったの?」
「ああ、田中くん?さっきそこで会っただけ」
「なに言ってんの。沖田くんでしょ」
「……ハ?」
「沖田総悟。さっきあんたと一緒に来た人」


バッとあの男のほうを見ると、にやりと真っ黒な笑みを浮かべてこちらを見ていた。

騙されたァァ!あんの野郎!!ぎゅっとつくった握りこぶしを震わせながらもう二度とあいつと関わらないことを決めた。



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