チキンレース | ナノ
『もういいよ』
そう笑ったあいつの顔が忘れられない。
なにか吹っ切れたような、諦めたようなそんな表情だったから
「行くぞ」
「は、え、どこに?」
また口をきくようになって数日。気まずさは嘘のように消えた…わけじゃないが、まあそれなりに話せているとは思う。
今日も勝手に授業後にマックに連行して、とりあえずシェイクを吸っている。
「…」
「…」
会話はないが、目の前の女は以前のように特に気まずそうにもじもじしたりしなくなった。それは慣れたわけじゃなくて、例えるなら割り切ったような雰囲気。
「なァ」
「え?」
「お前さ、」
「あー沖田くん!と名前ちゃん」
気だるげな声が聞こえてげんなりと後ろを振り返る。案の定、銀髪をきらきら輝かせながらひらひら手を振っていた。
久しぶりじゃーんと妙に間延びした話し方で何気なく俺の隣に座ってきた。うげえと眉を寄せたが、旦那が気づいている様子はない。たぶん旦那の場合はわかっててやってるんだろうけど
「そういや名前ちゃんに話あったんだった」
「わたしに、ですか?」
嫌な予感。視線は窓の外、耳はがっつり話を聞きながらじゅーとシェイクを吸う。
「合コン来ない?」
「ぅえ」
ぴたり、と動きを止めた。
……いまなんて言った?
「そ、そんな」
「男の子が苦手っていうのはわかってるけど、いつまでもそう言ってるわけにもいかないし。それに沖田くんと話もできてるから他の男の子とも普通に話せるっしょ」
「でも…」
俺がそいつを好きだっていうの、知ってるくせに。知ってるくせに合コンなんかに誘う旦那もさっさと断らないあの女にも腹が立つ。思い切り立ち上がれば、がたんとテーブルが動いた。
「こいつは永遠、一生涯、そんなとこに行きやせんから」
「お、沖田くん」
旦那を睨みつけながら、イライラを滲ませて言う。
「…ふーん」
そんな俺の視線をさらりと流して目を細める。旦那の紅がきらりと光った。
この目はよくない目だ、と第五感が告げる。
「沖田くん、良いこと教えたげよっか」
「…なんですかィ」
旦那の言うイイコトが本当に良いことだった試しがない。でもまあ、じろりと視線を投げながらおざなりに返事をしておく。
「恋人じゃないなら、名前ちゃんを縛る権利なんて沖田くんにはないんだよ」
ほら、やっぱりろくでもないじゃねーか