チキンレース | ナノ
わからないことだらけだ
「……はぁ」
それでも朝は来るし、学校だってある。
あれから沖田くんとはなぜか会わなかった。同じ学部だから必修の授業だってあるのに姿を見かけることはなくて。高校とは違って広い広い大学じゃあ会おうとしなきゃ簡単には会えないんだと思い知る。
それなら毎日のようにわたしを見つけて声をかけてくれた沖田くんはどうなんだろう。わざわざ探してくれたのはどうして?
自問自答しておいて、自分に都合のいい答えを勝手に用意してる。
「……はぁ」
やっぱり生まれるのはため息だけだ。
*
それからなんとなく毎日は過ぎていって、一度も沖田くんと会うこともなく夏休み目前になった。
このまま沖田くんと顔を合わせずに夏休みになって本当にいいのかな。答えはもちろん否だけど、沖田くんを捕まえる方法がわからないからどうしようもない。
「…」
でも、もし会ったらなんて言ってやろう
なんで避けるの?とかちゃんと話がしたいとか。あるいは逃げるんじゃないなんて罵倒してみたりして
……ま、そんなことできるわけないけど。
でも話がしたいのは本心
だって沖田くんがいないと落ち着かない。なんていうかざわざわするっていうか。そうだ、わたしは沖田くんがいないことが気になってるんだ
学食で友達と定食を食べていたら見知った横顔を見つけた。あのドラマがさー、なんて話す友達の声なんて聞こえなくてただその姿を目で追っていた。それでもすぐに人混みのなかに消えて、見失ってしまった。
ドクン、と心臓が鳴る。
いま行かないと終わってしまう、もう二度と沖田くんには会えない。
そんなことあるわけないのに、でも本当にそうなってしまう気がした。
「ごめんっ」
「え、ちょっと!」
後ろで友達が名前を呼んでいたけど、それをふりきるように走った。
人にぶつかりながらそれでも駆ける。あともうちょっとという距離になって大きく息を吸う。
「沖田くん!」
ハアハア、と肩で息をしながら立ち止まる。振り返った沖田くんは目を丸くしてわたしを見つめていた。いつも黒い笑顔でいたのとは違って歳相応の表情。
そんな顔、はじめて見たよ
「沖田くん」
伝えたいこと、言いたいことはたくさんあるよ。でも一番言いたいことはきっと、
「やっぱりいいよ」
言葉はいらない、答えも欲しくない。それを求めて沖田くんが離れていっちゃうなら最初からなにも望まないから。
大嫌いだったはずなのに、男なんて最低なやつだと思ってたのに。
「沖田くん」
「…………うっせー」
たぶん沖田くんだけは特別なんだ